2月下旬、コンサートの準備を進めていた山口さんの耳に「コンサート自粛」の言葉が飛び込んできた。新型コロナウイルス感染症の流行を抑えるため、政府がイベント開催の必要性を再検討するよう国民に求め始めていた。
その日のコンサートはなんとか開催できたが、その後はコンサートの中止が相次いだ。
「3月だけでも11本のコンサートが中止になり3000万円の損失が出た。4月も同じくらいになるだろう」(山口さん)
無観客コンサートの動画配信という方法も考えたが、本拠地としているホールからは「無観客でもやらないでくれ」と連絡が来たという。楽員は、いつできるかも分からないコンサートに向け、家で練習するしかなくなった。
そんな中、山口さんが思い付いたのが「テレワークでパプリカやってみた!」だ。3月14日の昼、山口さんは「暇だからちょっとやってみよう」と、仲のいい楽員に話を持ちかけた。
「(練習だけでは)誰かに音楽を届けるという音楽家としての意義を果たせず、つらい状況になる。だから、何か発信したいと思うようになった」――山口さんは企画立ち上げの動機をそう語る。
「テレワーク推進のニュースを見たが、テレワークとオーケストラは結び付かない。一番向いていない仕事だと思っていた。しかし、やり方さえ考えればなんとかなると思って始めてみた」(山口さん)
15日午前1時には1本目の動画が完成した。楽員はYouTubeで公開されているパプリカの動画を見ながら、山口さんのオーケストラアレンジ譜を演奏。山口さんが動画を編集して一つにまとめたものだ。
この動画はタイトルに「やってみた」とあるように、テレワーク合奏が成立するのかどうか実験するものだという。
「実験なので、(演奏が)そろわなくても『そろいませんでした』といえばいい」と考えていた山口さんだが、最終的には「当初の想定以上に形になり、思ったより面白かった」という。
最初は4人だった参加者も徐々に増え、最終的には85人いる全楽員のうち62人が演奏に参加。「テレワークでパプリカやってみた!」はシリーズ合計で約170万再生された。
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