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60人が自宅から「パプリカ」合奏、テレワークオーケストラの舞台裏 ばらばらの環境で統一感出せた理由#うちでもできたよテレワーク(4/5 ページ)

» 2020年04月28日 07時00分 公開
[谷井将人ITmedia]

「隣人の気配を感じられるか」 集団芸術の要を“想像”で補完

 音楽面での難しさは「ノリがあわない」「隣の人の気配が感じられない」というところだという。

 オーケストラは何人もの人が1カ所に集まって作り上げる芸術だ。普段の演奏では、それぞれの音楽の捉え方をリアルタイムにすりあわせ、一つのオーケストラとしての演奏を作っているという。

 「普段のステージでは、(各個人の音楽性の)違いを一瞬で感じ取って、他の人と感性を合わせていっている」(山口さん)

photo 普段のステージ(新日本フィルハーモニー交響楽団のWebサイトより)

 「テレワークでパプリカやってみた!」には、メトロノームを使わないというルールがあった。メトロノームを使えばタイミングを合わせるのは簡単だが、どうしても練習っぽくなってしまい、曲の面白さが出せなくなってしまうからだ。

 しかし、原曲を聴きながら別々に演奏すると、ノリに個人差が出てしまい、全体としては統一感がなくなってしまう。

 そこで山口さんは、参加者にあらかじめ「『あの人だったらどう演奏するかな』ということを想定して演奏してください」と伝えておいた。リアルタイムに隣の人の気配を感じ取って合わせるのはできないため、想像で補う作戦だ。

 実際には、2日目以降の参加者は前日までの動画を見て、ノリの傾向と対策を立て、それに合わせて演奏する場合もあったという。

 これらの困難を乗り越え、テレワークオーケストラは完成した。

思わぬメリットも 「楽員一人一人の生活が見える」

 テレワークオーケストラに取り組んで良かったこともある。1つは多くの人に音楽を届けられたことだ。動画の再生数はコンサートの来場者数を大きく超え、山口さんは「想像もしていないくらいの人に見ていただけてうれしかった」と笑顔を見せた。

 コンサートで演奏する場合、ホールの大きさの関係で観客は多くても2000人しか入らない。「クラシックはファン層も狭く、多くの人に届けるのは難しい。いつもたくさんの人に聞いてもらいたいと思っていた」(山口さん)。

 楽員一人一人の顔がはっきり見えるのもこれまでにない利点だという。楽員は普段、みんな同じ衣装でステージに立っている。ステージから離れた位置で演奏を聞く観客からは顔があまり見えない。演奏後のアンケートでも「『この人がどうだった』と個人にフォーカスすることはない。ファンになる場合も、個人ではなくオーケストラのファンになる」(山口さん)という。

 だが、今回の企画では、各自好きな場所で好きな格好でカメラに向かって演奏している。趣味の道具が映り込んでいる人、子どもと一緒に動画を撮っている人もいる。

photo 各フレームからそれぞれの趣味や人生が見えてくる

 山口さんは「動画にはちゃんと60人分のフレームがあって、それぞれの趣味や人生のバックボーンが各フレームから見えてくるというのは普段のコンサートでは絶対にない」とし、「普段は見られない楽員の一面や生活を見てほしい」と語る。

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