「安心してスマ葬」の取材をする数日前、ネットを使った葬儀仲介サービス「小さなお葬式」を運営するユニクエストから緊急アンケートの結果をまとめたリリースが届いた。
同社が提携する葬儀社に向けて4月6〜13日に実施した葬儀現場に関する調査で、特に目を引いたのが「葬儀の参列をオンラインで行うなど、ライブ中継のニーズは高まっていますか?」という項目だ。
結果は「はい」が3.5%、「いいえ」が96.5%。筆者はこの数字を見て、「少し上がってきているな」と思った。
葬儀や法要のライブ中継サービスのリリースをちょくちょく見かけるようになったのは7〜8年前。2016年1月には、人気ロックバンド・モーターヘッドのリーダーで15年末に急逝したレミー・キルミスターさんの葬儀がYouTubeで生配信されて話題になったし、さらにさかのぼって11年10月には、Apple創業者のスティーブ・ジョブスさんの追悼式が社員向けにネット中継されたと多くのメディアで報じられている。この頃にはライブ中継技術が十分に発達しており、アイデアと少しの機材があれば多くの葬送関係者が導入できる環境が整っていたわけだ。
しかし、ニーズはなかなか伸びてこなかった。
葬送ライブサービスは開始から1年近くたって取材することが多いが、当時は実績を尋ねても「相談だけで実施はまだです」「身内に協力してもらった数件だけです」といった回答ばかりだったことを覚えている。なかには「キワモノと扱われるといけないので、今はあまり宣伝していません」という本音を聞いたこともある。
日本の事情に目を向けると、1991年には280人前後だった会葬者の平均人数が60人台になって久しい。バブル時代は故人ではなく喪主の知り合いが付き合いで参列するケースが多かったのもあるが、会葬者が減った理由は他にもある。いまは健康上や物理的な距離の問題から参列したくてもできない人が増えているのだ。背景には故人の長寿命化と都市への人口集中がある。故人と深い付き合いの人も歳をとるし、遠方で暮らしていることも多い。
そこをカバーするのにオンラインを使った葬儀サービスはうってつけといえる。けれど、伝統的な儀式空間とデジタルツールはどうしても食い合わせが悪く、抵抗を感じる人が多いのも事実だ。葬儀の場で決定権を握ることが多い年代の人たちにとって、デジタルやネットがなじみ薄いのも少なからず影響を与えているだろう。
つまり、「何か違和感がある」状態。人型ロボットの「Pepper」が僧侶の格好をして読経するような(※実際にあった)、ジョーク空間の出来事と思ってしまう人が多かったのではないかと思う。
だからこそ、わずか3.5%の「はい」にニーズの上昇を感じたし、3週間足らずで8件も実施している「安心してスマ葬」に驚いた。
それだけ新型コロナウイルスの存在が大きかったのではないだろうか。“三密”を回避するために、そして、それでも故人と向き合うために、色メガネを外してオンライン葬儀という選択肢を真正面から捉えるようになった――。
そういう動きがいま、いろいろなところで起きているのではないかと感じている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR