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» 2020年06月04日 17時00分 公開

「オンライン化した発表会」はどんな存在だったのか (1/2)

コロナ禍で、取材風景はどう変わったか。

[西田宗千佳,ITmedia]

 新型コロナウイルスの影響から、我々はそろそろ立ち上がろうとしている。おそらくその過程で、元に戻るものも多い(きっと、我々が思っている以上に多いはずだ)が、変わってしまうものもあるだろう。

 その一つが「ビデオ会議の活用」だ。

 以前から存在はしていたが、結果的に「皆が使うことを強いられた」結果、どんな風に使うのか、どう使うと逆に不便なのか、というところも見えてきた。

 ここでは、筆者が関わる使い方のうち「会見」「発表会」について考えてみたい。今まではみなリアルイベントだったが、今後はそうもいかないだろう。どうなるのかを予想してみたい。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2020年6月1日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから

「直接」時代の企業とメディアの関係

 会見や発表会がオンラインになって困ることがあったのか? そう聞かれると、「意外と少ない」と答えざるを得ない。

 もちろん、コミュニケーションの上で問題はある。例えば、記者同士の雑談から生まれる情報交換、取材前後に広報担当者や現場関係者と立ち話をして得られる情報。そうしたものは、オンラインになることによって失われてしまった。これはこれで由々しき問題だ。なにより、オンラインでは簡単に再現できないのが厳しい。

 だが「発表会の内容を受け取る」という意味では、オンライン開催であることのデメリットはほとんどない、と言っていいだろう。

 考えてみれば当たり前のことだ。以前より、企業側が消費者やメディアに対し、ビデオメッセージの形で情報を「直接」届けることは少なくなかった。それが常態化するだけの話だ。

 規模の大きな企業の発表は、記者だけでなく消費者にも広く公開されるようになっている。以前から述べてきたが、「記者だけが情報を得る」意味は、企業から見るとほとんどない。広く情報を知らしめたいのであれば、企業が消費者と直接繋がった方がいい。そうすることで、メディアを介することによる「解釈の違い」もなくなる。特に、もともと大きな顧客を抱える大企業の場合には、その傾向が強い。

 だがそれでも、企業は「記者向け」に説明会を開くし、広く多くの人が視聴できる形の情報であっても、記者向けには別途レクチャーを行なったりする。それはもちろん、「直接」だけでは浸透しない企業も多いからだ。大企業であっても、伝えたい情報が多すぎる・一般の人には複雑すぎる場合、トランスレーターとしてメディアが必要になる。

 従来に比べメディアの役割は確かに弱まるだろうが、要は、拡散・翻訳・多視点というメディアの価値は変わらず存在するというわけだ。

「質の高いビデオ配信」をいち早く提供したAppleとMicrosoft

 話を少し元に戻そう。

 そんなふうに「以前から当たり前」ではあったことだが、企業の側が日常的な発表会・会見の類をネット化する準備ができていたか、というと、そうではない。

 素早く対処してきたのは、海外の大手ITプラットフォーマーだ。特にApple、Microsoftはすごい。彼らが記者ブリーフィング向けに作る映像は、まるでプロモーションビデオのようだ。本当はお見せしたい部分もあるが、いつ・なんのために開催されたのかを開示できない性質のものもあるので、言葉での説明だけで留めさせていただく。

 ちゃんとしたカメラで担当者を(背景にボケもつけて)撮影し、表示されるプレゼン資料のクオリティも完璧。普段ステージで行っているイベントや説明を、ちゃんとしたクオリティの「ビデオ資料」へと変換していた。一般の消費者向けに流すプレゼンテーションビデオと同じクオリティのものを、記者向けにも作っていたのである。

photo 例年、大きな技術・製品の発表が行われていたWWDCも今年は完全オンラインだ

 こうしたことは、社内にちゃんとした撮影チームと映像制作チームがいるからできることなのだろう。

 一方で、そのためには「ソーシャルディスタンスを保ちながら会社に行く」ことが必須だったろうと推察される。日本の場合、そこまで視聴対象人数が多くなかったこと、広報担当者と言えど可能な限り出社を回避する状況があったことなどから、PCの内蔵カメラを使った「普通のビデオ会議」が多かった。それはそれで理解できる。

 ただ、社長会見や製品のブリーフィングなどは、ちゃんとした担当者+カメラをつけるべきではなかったか。それこそ、PCのカメラではなく一眼レフやミラーレスなどをうまく使って、背景も配慮した上で撮影すれば、見栄えはずいぶん違ったはずだ。

 このようなオンラインを使うやり方が「あくまで一時的なもの」ならそんな体制を取る必要はないが、「会場をセッティングして発表会をする」より良い部分もあり、今後はオンライン発表会も増えるのではないか、と思っている。だとすると、「ちゃんとしたカメラでちゃんと撮影し」「説明も机に座ってやるのではなくテレビショッピング的なイメージで行う(別に買えとあおるのがいい、というわけではないが)」ことが求められるのではないか。

 こうしたビデオメッセージのためのノウハウとシステム構築は、一つのビジネスになるのではないか、と思っている。企業向けだけでなく、アーティスト個人の情報発信であっても重要だ。「大人気のミュージシャンがスマホだけで」というのがずっと許されるとは思えない。今は一部のYouTuberが持っているようなノウハウが、もっと一般化していく可能性は高く、産業価値を産んでいくだろう。

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