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「オンライン化した発表会」はどんな存在だったのか(2/2 ページ)

» 2020年06月04日 17時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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企業側がオンラインを喜ぶ理由は「思った通りの絵を流せる」から

 企業側としても、ビデオ会議なりビデオメッセージなりの形で発表する、というのは「ノウハウがないので手間がかかる」という問題があるにしろ、プラスであると評価している側面も多い。

 「あれはあれで悪くなかったと思う。なぜなら、記事で取り上げられる時に使われる写真が、ほぼこちらの想定した絵面のときのものになっているので」

 ある企業のエクゼクティブは、ビデオでの発表会について筆者に問われ、そう答えた。

 発表会での写真を企業側が選ぶことはできない。記者の座席によっては、あまりいい写真が撮れない位置になることもある。(筆者も人のことを言えた立場ではないが)写真の腕もバラバラだ。だが、メディアとしても記者としても、「オフィシャルの提供写真」で済ますことはしたくない。だから、メディアによって写真の質はバラバラになる。Webメディアになり、プロのカメラマン以外が写真を撮る機会が増えてからは特にそうだ。

 PRしたい企業の目線で言えば、これはプラスではない。だが、許容せざるを得ないのが実情だし、そういうものだと思ってきた部分があるのだろう。

 だが、ビデオでの対話が当たり前になった今、カメラ位置はどの記者にとっても「固定」。スクリーンショットや提供写真を使うしかない。そうすると、自然と「質は一定のものになる」。

 ビデオ会議・ビデオメッセージでのコミュニケーションになって、企業側から提供される「資料」は増えた。紙でなくPDF提供になったので、資料を記事で引用する場合にも「壇上に投射された資料の写真」である必要はなくなった。もちろん、紙資料を後でスキャンしてデジタル化する必要もないし、紙資料をシュレッダーにかける必要もない。出席した会議の録音・録画は先方から提供されるようになった。もちろん自分でも録音はしているが、ミスがあったときに助かる。こうしたことは「オンライン移行」の恩恵だ。

 一方で、メディア側から言えば、写真の件は「画一化」につながりかねない。質疑応答や事後の追加取材などが弱くなりやすく、内容を差別化するには一層の努力が必要だ。

オンライン会見最大の課題は「質疑応答」

 特に気になるのが「質疑応答」だ。

 質疑応答については、どこも結局「試行錯誤中」のまま進んだ印象がある。挙手やZoomなどの「挙手ボタン」で行うところ、チャットなどで「質問がある」ことだけ明示し、司会者に当てられたら話し始めるところなどいろいろあるが、楽天やソニーなど、大企業のいくつかで「メールなどで質問を集め、それを企業側が選んで答える」という形態のものがあった。

 これはかなり問題がある。どんな質問が出たかが可視化できず、大企業側は「都合の悪い質問には答えない」というやり方ができてしまうからだ。

 もちろん、オフラインでの質疑応答でも、企業側は答えたくない質問に「ノーコメント」で応じることができる。だが、「ノーコメント」だったことは可視化されるし、その答え方からも情報が読み取れる。

 そもそも、メールで質問を送っても、その内容について、常に「思っているように答えてもらえる」わけではない。オフラインの質問でも、聞きたいことと回答が食い違うことはある。だがその時には再質問したり、別の切り口での質問をぶつけたりして修正舵を当てられる。だがメールの場合、投げた後の再質問はできないので、向こうがいいように解釈した答えだけが返ってくることになる。

 多数の質問をさばくのが難しい、という進行上の理由はよく分かる。だが、対等な立場での質疑応答ができない形であるのは、企業側にとってもメディア側にとっても、そして何より消費者にとっていいことではない。

 今のところ、「質問を会見全体のチャットに投げ、誰が質問したかを可視化した状態で、企業側が質問者を指名する」形が穏当なのか、とも思う。

 「質疑応答」の問題は学校などでも出ている、と聞いているが、オンラインの意外な弱みでもある。Zoomは「挙手」機能があり、これは一つの解決策だと思うが、大規模なミーティング・ウェビナーでも、もっと快適に質疑応答をする手段があってもいい、とは思う。

photo Zoomの参加者は「挙手」ができる

 発表会・会見などを通じた記者の取材活動をオンライン化するには、まず「質疑応答での妥当な方法論」を見つける必要がありそうだ。

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