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» 2020年05月22日 15時30分 公開

「日本はなぜこんなにスマホケースが豊富なのか」を改めて解説する (1/2)

世界中で使われているスマートフォンだが、日本だけが突出してケースが充実している。だが、その理由は単純なものではない。

[西田宗千佳,ITmedia]

 先日、「スマホのケース、なぜiPhone用が充実 悲しきAndroid民」という記事がSNS上でシェアされていた。

 この記事、取材の上でまとめられているのだが、ちょっと不完全だと感じる。

 この話は、AndroidとiPhoneの差以上に、「スマホケース」という市場の特性が大きく効いている。そして、そこには「日本という市場だから」、という部分も多い。

 そこで、ちょっと「スマホケースと日本市場」の関係について、改めてまとめてみようと思う。かなり興味深いことではあるからだ。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2020年5月11日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから

進化した「日本の量販店の売り場」がスマホケース市場を生んだ

 日本の家電量販店のスマホ売り場に行くと、例外なく多数のスマホケースが並んでいる。ヨドバシカメラ・秋葉原店のような大型店舗のスマホケース売り場の大きさは特別だ。最近は減ったが、iPhone登場後数年はケース専門店もあった。通販でも、多数のスマホケースが売られている。

 ただ、特に店頭で、ここまで多くの種類のスマホケースが売っている国は少ない。自分が知っている国や地域だと、韓国や香港などは比較的多彩だが、それでも日本ほどではないと思う。欧米はもっと簡素だ。

 例えば、アメリカの家電量販店である「Best Buy」に行っても、いわゆる「かわいいスマホケース」はほとんど売られていない。おじさんくさい、黒いケースが売られている程度だ。アメリカでスマホケースというと、ショッピングモールの通路の真ん中で、ワゴンに入れて業者が安売りしているもの、という感じだろうか。あとは、Apple Storeにはたくさんある。と言っても、ワゴンに並んでいるものも、Apple Storeにも、そこまで多彩なケースがあるわけではない。

 「やっぱり日本市場は特殊で、日本製のケースが多いのだろう」と思う人もいそうだが、それは大きな間違い。スマホケースのほとんどは中国製であり、深セン辺りにいけば、業者向けにバルクで売る店が多数あるほどだ。ケースを自分で製造業者に発注するところもあれば、そうした業者が作るものを仕入れて売るところもある。日本にスマホケースがたくさん、バリエーション豊かに売られているのは、「売り場があって流通しやすいから」という側面がある。

 これには、日本の「家電量販店」という流通形態の影響が色濃く反映されている。

 家電量販店は、皆さんもご存じの通り、家電を一度に大量に仕入れて売る小売りチェーンだ。だが、もう15年以上前から、家電そのものの売り上げは伸びづらくなっている。価格競争による家電の低価格化やニーズ低迷などが理由だ。「なぜ家電量販店が苦しいのか」という話は、それだけで本が何冊も書けるレベルなので、ここでは「苦しい」とだけ理解してもらいたい。

 単に家電を売るだけは儲からない。同時に、携帯電話やスマートフォンの販売・契約代理店としての業務も積極的に行った。実のところ、携帯電話の契約に伴う代理店収入の方が、テレビを1台売るよりも収益はいい。2000年代までは量販店の1階は「テレビ売り場」だったが、そこが「携帯電話・スマートフォン売り場」になって久しい。多くの人がそれを求めており、売り上げも大きいからだ。

 とはいえ、携帯電話のビジネスも厳しいことに違いはない。そこで、昔から家電量販店が収益を高めるために使っていた手法が重要になってくる。それは「家電とその周辺商品をうまく一緒に売る」ことに力を入れることだ。周辺グッズは単価は小さいものの、利益率は悪くない。いくつかの品を「ついでに」買っていってくれれば、量販店としてはおいしい。

 いろいろな人にアピールするには、バリエーション豊かな商品がすぐに手に入ることが重要。スマホケースは、機能だけでなくファッションに近い部分もあるのでなおさらだ。

 そこで工夫した結果が、今の量販店の姿だ。スマホケースやケーブル、カバーフィルムなどが大量に売られており、スマホを買ったついでに必要なものをすぐに探せる。ある種の「ワンストップショッピング」だが、そういう「売り場導線の作り方と見せ方」では、日本の量販店のノウハウは群を抜いている。海外、特にアメリカの量販店が通販に押されて弱くなる中、日本はうまく最適化して差別化した、と言ってもいい。

「アイデンティティー」がケースの販売効率と絡まって現状を生み出す

 日本の場合、スマホケースを「自分のアイデンティティーとして着飾るように付ける」人が少なくない。もちろん、純粋に保護としてつける人も多いが、ファッション性を無視する人もまた少ないのではないか。

 海外、特に欧米は、そこまでスマホケースがファッション性と結びついていない。流れ的には「ケータイストラップ」文化に通じるものがあり、これもまた、ほぼ日本にしかなかった「アイデンティティーの発露としてのアクセサリービジネス」であったりもする。なぜこのような差ができたのかは、もう少し文化的な面を掘り下げる必要がある。

 それはともかく、「人と違うものを付けたい」もしくは「友達と合わせたものを使いたい」という、ファッションに近い意識が他国より強いのは間違いなさそうだ。これは筆者の予測だが、スマートフォンになって以降、スマートフォン自体のデザインバリエーションが少なくなったことも、スマホケースで差別化したい、という意識につながっているのではないだろうか。

 そうなると、スマホケースには、バリエーションの豊かさが何より重要になる。

 ここで問題になるのが「ケースの販売効率」だ。

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