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新型コロナウイルス流行下での映画産業を考える(1/3 ページ)

» 2020年05月08日 08時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 この仕事をしていると「将来を見通した言葉」に出会うことは少なくない。

 たった2カ月前だが、筆者はまさにその言葉に出会っている。2月末、新海誠監督にインタビューした時に、彼から出た言葉を何度も思い出してしまう。記事は以下に掲載されているので、ご一読いただければと思う。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2020年5月4日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。

2カ月後に考える「新海誠監督の言葉」

 このインタビューが行われたのは、2月28日のことだ。まだ緊急事態宣言も発動されておらず、かなり控え気味になっていたとはいえ、日々取材のために外出もしていた。インタビューが「対面」であったことも、今となっては少々懐かしく思う。

 なぜインタビュー日を正確に覚えているのかといえば、全国の小中高で、3月2日から一斉休校となることが発表されたのが、前日の2月27日のことだったからだ。

 取材はもともと、新海監督がアップルの広告に出る、ということから組まれたもので、本来はMacとの関わりとか過去の話であるとか、Macをどう創作の中で使っているのかとか、そういう話を聞く予定だった。もちろん、そうした話も聞いているのだが(だからインタビュー全体が成立しているともいう)、筆者としてはどうしても、「思いもよらぬ事象で社会が変わりつつあること」「映画などの制作にも、映像配信などの影響が出始めていること」を聞きたかった。

 その時は新型コロナウイルスの話をことさら聞きたかったわけではない。「昨日ああいうニュースがあって、映画も上映延期が増え始めている。それを監督はどう捉えたのか」という、もうすこし一般論としての「変容の兆しや影響」について尋ねたつもりだった。

 脳裏にあったのは、新海監督の作品である『天気の子』のストーリーだった。ネタバレになるので詳しくは語らない。だが一言で言えば、あれは、ありがちな「突然やってきた世界の変化から、主人公が誰かを救う話」ではない。

「学校が一斉休校になって映画の上映延期が相次いでいます。まるで三流のSFのような世界です。1カ月前とは違う。そのことを僕たちは選べないし、予想もできないわけじゃないですか」

「映画作りや作品作りは経済や社会状況とは切り離しようがないんだということを、僕たちはまさに突きつけられているわけですよね。映画に関して言えば、ごく短期的には映画館を避けて配信に、という気分になっていくのかもしれない。そうすると、みんな一緒に大きなスクリーンで没入して……ということも、今後は時期によっては難しいことになるのかもしれない」

 新海監督の口からは、そんな言葉が出てきた。重ねていうが、これは「2月末」の発言だ。そうした予想をすることはできたが、ここまで明確に今の状況を、あのタイミングで明言したコメントは少なかったように思う。

 活動の前提となる条件は自分で選べるのか、と問われれば「必ずしも選べない」としか答えようがない。そんな与えられたコンディションの中でなにを最善とするのか、なにを「良い」と考えて人々に提示するのか。我々ができるのはそういうことなんじゃないのか……。

 本人の思いと一致しているかはわからない。だが、筆者は新海監督の言葉をそう受け止めた。そして、そのことで『天気の子』がなぜああいう作品となったのか、本当に理解できた気になった。

photo 新海誠監督の最新作『天気の子』
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