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新型コロナウイルス流行下での映画産業を考える(3/3 ページ)

» 2020年05月08日 08時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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「制作できない」困難、アニメは「CG活用」に活路が

 もう1つの大きな問題は、映画を含めた映像作品の「制作」そのものが難しくなっている、ということだ。

 映画制作は、ある意味工場でのものづくりに近い。ロケ現場やスタジオという「なにかを作る場」に人が集まり、実際に動かないとでき上がらない。

 もちろん、いわゆるテレワークで済む部分もある。初期のコンセプトワークや最終的な編集作業に近い部分だ。まったく集まらず……というわけにも行かないだろうが、実際の映画撮影のように、スタッフ、キャストを入れて数十人が一度に集まって……という必要はない。

 撮影できないからこそ、映画やドラマの新作の制作は、現在難しくなっている。この影響は、テレビ作品の場合すでに出始めているが、映画の場合には制作や準備に時間がかかるため、2021年度の作品に強く影響してくる。配信作品もテレビというよりは映画に近いため、2020年後半以降の作品から影響が顕著に出始める……と見られている。

 これは「市場に製品が供給されなくなる」ことに等しく、極めて大きな課題である。「会わないで撮影する作品」も出てきてはいるが、限定されたシチュエーションの作品しかできないので、解決策とは言い難い。

 「アニメなら撮影しないからできるのでは」と思われがちだが、これも難しい。特に、手描きで作られるアニメの場合、多くの人の手作業を経て作られるため、それらの人々の工程管理や制作進行の関係もあり、結局「スタジオに集まって作る」のが基本。しかも現在は、中国など他国との連携で製作される部分も多く、自国の事情だけで制作が進むわけではない。テレビアニメも続々「放送延期」になっている。

 一方で面白いのは、CGアニメを制作するスタジオはテレワークを積極的に導入し、アーティストが在宅のまま作品制作を続けていることだ。国内だと、4月からポリゴン・ピクチュアズやデジタルフロンティアなどが、自宅から会社のマシンへとログインして作業する形で、テレワークによる制作を進めている。

 もともとCGアニメは、手描きに対して制作管理がしっかりしており、収益・働き方の両面で安定している、と言われてきた。手描きとCGには表現の上で差があり、特に日本のアニメファンにはCG作品の評判が良くないのだが、この状況下で安定して制作を進め、品質も上げていくにはCGの活用を進めるしかないのではないか。CG制作のためにテクノロジーを導入した結果、その延長線上としてスムーズにテレワークが進んでいるのではないか、とも思える。

photo Netflixオリジナルとして配信された『攻殻機動隊 SAC_2045』もフルCG作品だ

 2017年、福岡にアニメ・CG制作会社「スタジオQ」を設立する際、庵野秀明監督を取材している。その時に庵野監督は、「若いアニメーターには、できるだけ(手描きだけでなく)CG、デジタルもちゃんとやっておいて欲しい」という話をしていた。カラーの作品は手描きの極地のように言われることも多いが、実は非常にCGの比率も高い。昨年夏には、CG制作環境として「Blender」を全面採用し、Blender財団に出資することも発表している。

 彼らは福岡と東京に分かれて作業をしており、おそらく今回の事態の中で、テレワークの活用も進めているのではないか、と推察できる。

 制作とテクノロジーの関係を見直すという意味で、今回の新型コロナウイルスによる災厄は、他の業界同様、映像業界にも大きな転機となるのは間違いないのではないか。

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