インターネットイニシアティブ(IIJ)と静岡県などが参加する共同研究グループ「水田水管理ICT活用コンソーシアム」は6月10日、IoTを活用したスマート農業の実証実験の結果を発表した。水位・水温センサー、遠隔操作できる自動給水弁、専用のブラウザアプリ、それらを管理するITシステムを開発し、稲作における水田の水位管理に導入した結果、農業従事者の作業時間を最大で約79%削減できたという。
実証実験に参加した、稲作を手掛ける企業・Aプランニングの増田勇一さんは「水田に行く回数が減ったことで仕事が単純になり、楽になった」「システムを導入してよかった」と心境を明かした。
実験は2017年度〜19年度に、静岡県袋井市と磐田市で実施。両地域では従来、農業従事者が敷地を移動しながら、水位の管理や調整を手動で行っており、大きな負担となっていた。IoTの活用によってこれを解消する狙いがあり、実験では5つの農家が管理する計約75haの水田に、300基のセンサーと100基の自動給水弁を設置した。
センサーと自動給水弁の管理には、研究グループが開発した「ICT水管理システム」を使用。IIJが開発した無線基地局を通してクラウド上にデータを送信するシステムで、農業従事者がアプリから水位を確認したり、自動給水弁を遠隔操作して水位をコントロールしたり、給水時間をタイマーで調整したり――といった用途を実現した。
通信規格にはIoT向けの「LoRaWAN」を使用。クラウドとの通信を基地局が担うため、各センサーにSIMを用意する必要がないのが特徴だ。これにより、農業従事者が数枚のSIMで数百のセンサーを管理できるようにし、システム全体の安価な運用も可能にした。
実験では、農業従事者がこれらのシステムを使用した結果、水位管理に要する時間を、実験前から最大で約79%削減した(2680分から582分、17年と19年の6〜7月実績を比較)。また、水位管理に要する移動距離を最大で約48%削減した(12.8kmから6.6km、17年と19年の繁忙期の平均実績を比較)。
IIJの齋藤透さん(IoTビジネス事業部 副事業部長)は「日本の農業は農業者人口の減少や高齢化など多くの課題を抱えているが、われわれの力を結集して解決していきたい」と話した。
水田水管理ICT活用コンソーシアムにはIIJと静岡県の他、IoT農業サービスを手掛ける笑農和などが参加。IIJはセンサーや基地局の開発を、笑農和は自動給水弁やブラウザアプリの開発を担った。
IIJはICT水管理システムの商品化を進めており、自社開発したセンサーや通信機器などをセットにした「水管理キット S」を発売済み。将来はシステムのオープン化を図る計画で、他社製のセンサーやアプリと連携できるプラットフォームの開発を目指すという。
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