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» 2020年06月23日 14時10分 公開

開発コミュニティー破綻? 接触確認アプリの問題点と批判の在り方で激論

「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」の不具合や開発体制を巡って、ネット上で議論が巻き起こっている。アプリのベースになったオープンソースプロジェクト「COVID-19Radar」の中心的人物である廣瀬一海さんは、次のリリースで開発から離れ、委託会社などに託したい考えを示した。

[井上輝一,ITmedia]

 厚生労働省が6月19日に配信を始めた、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)陽性者に濃厚接触した可能性を通知するスマートフォンアプリ「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」の不具合や開発体制を巡って、ネット上で議論が巻き起こっている。アプリのベースになったオープンソースプロジェクト「COVID-19Radar」の中心的人物である廣瀬一海さんは自身のTwitterアカウントで、「この件でコミュニティーはメンタル共に破綻した」として、次のリリースで開発から離れ、委託会社などに託したい考えを示した。

「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」の不具合や開発体制を巡って、ネット上で議論が巻き起こっている

見つかった不具合などに厳しい批判

 議論の発端となったのは、COCOAに見つかったいくつかの不具合やアプリリリース上の手続きの問題点などだ。

 中でも議論の的になったのは、「iOS版で初回起動時にBluetoothへのアクセスを許可しないとアプリを再度起動できなくなる」ということと、「AppleのApp Storeへのプレビュー版の公開は禁止されているのに、厚労省は公開したアプリをプレビュー版と説明していること」など。

 こうした問題点に気付いた、ソフトウェアエンジニアなど一部のTwitterユーザーから、「ド素人の開発」「情報系の大学生が開発した方がマシ」「プレビュー版と称した人体実験」などの厳しい批判が相次いだ。

「最終製品に責任を持つべきは委託会社と政府」

 一方で、COCOAの開発背景から、そうした厳しい批判に対する批判の声も上がっている。

 COVID-19Radarのプロジェクトとは別にオープンソースで接触確認アプリの開発を進めていた、一般社団法人コード・フォー・ジャパンの関治之代表は、「アプリの不具合に対してCOVID-19Radarのチームを責めるのは筋違い」とTwitterで指摘する。「OSS(オープンソースソフトウェア)で作られたものを最終製品として責任を持って納品すべきなのは委託事業者であり、製品の受け入れテストをしてリリースするのも、分かりやすい広報をするべきなのも政府だ」という。

 そもそも、COVID-19Radarは厚労省の開発するCOCOAそのものではなく、日本マイクロソフトの社員である廣瀬さんが個人開発で始めたプロジェクトだ。コード・フォー・ジャパンのプロジェクトも並行して進む中、それぞれが採用を前向きに検討していた米Appleと米Googleの共通通信規格が「1国1アプリ」「保健当局の開発」に限られることが分かり、厚労省が主導することに決定。これに伴い、厚労省は開発をパーソル&プロセステクノロジー(東京都江東区)に委託。同社は日本マイクロソフトとFIXER(東京都港区)に再委託したという。この過程で、OSSであるCOVID-19RadarがCOCOAのベースになることが決まった。

 厚労省が開発を主導すると決まったのは5月8日。25日には、安倍晋三首相が全国の緊急事態宣言を解除する記者会見の中で、同アプリを「6月中旬に公開する」と明言した。廣瀬さんはTwitterで、「5日前にAPIの仕様が変わろうと、実装が変わろうと、何があっても3週間で完璧なものを作り上げろと言われ、(それで不具合が出たら)へっぽこエンジニアの烙印を押されるわけだ……」とこぼす。

 短い期間の中で、社会的な意義が大きいアプリをリリースしなければならなかったことに同情的な声も上がった。

責任者より現場が目立つコロナ対策

 今回の一連の騒動に対して、複数の人から出ていた指摘が「批判の防波堤となる役割が必要だったのでは」というものだ。

 特にこのコロナ禍において、「誰かがやらなければいけない問題」に手を上げた人は注目を浴びやすい。廣瀬さんの他にも、コロナ関連では「8割おじさん」と呼ばれたクラスター対策班の西浦博教授(北海道大学)など、専門的な知識で政府のコロナ対策を支援する複数の人が注目の的になった。

 注目を浴びると、必然的に批判も当人に及びやすい。SNSで情報が伝わりやすい現代はなおさらだ。しかし、そうして手を上げた人たちはコロナ対策の支援や助言を行う“現場”的な立場であって、責任者であるのは政府や委託会社だ。実際、厚労省はITmedia NEWSの取材に対し、「実際のプログラムを作成したり納品物をチェックしたりといった、ソースコード以外の部分はパーソル&プロセステクノロジーが担っている」と答えている。批判を本来受けるべき人が受けず、本来そこまで受けなくていい人が受けてしまう“ねじれ”のような構図があるといえそうだ。

“開かれたプロジェクト”の強みが生きるか

 Twitter上での批判は開発コミュニティーの疲弊を招いたが、OSSらしい動きも起きつつある。

 市民エンジニアたちがGitHub上でCOVID-19Radarに対し、問題報告(Issue)や修正コードの提案(Pull Request)を次々に上げている。22日までの時点で、150件以上のIssueや400件以上のPull Requestが送られ、約120件のIssueが解決、約370件のPull Requestがプロジェクトへ取り込まれた。

COVID-19RadarのPull Requestの状況(6月23日時点)

 ただ、COVID-19Radar自体の改善は必ずしもCOCOAへ取り込まれるわけではない。取り込むかどうかを決めるのは委託会社や厚労省の役割だ。

 このため、廣瀬さんは「開発コミュニティーはあくまでオープンソース版の開発を行ったので、最終的なアプリへのフィードバックは厚労省にメールしていただけると反映されやすいと思う」として、COCOA自身については、開発に責任を持つ厚労省への連絡を呼びかけている。

 社会的な意義が大きいアプリである以上、不具合などがあれば批判は避けられない。しかし、アプリに不具合は付き物でもある。通常のアプリであれば気に入らない場合は同等の機能の別アプリという選択肢もあるが、接触確認アプリに関しては「1国1アプリ」という制限もある。

 オープンソースであるCOVID-19Radarについては市民エンジニアが議論や開発に参加可能であり、厚労省がリリースしている接触確認アプリCOCOAについてはメールの窓口がある。

 さまざまな考えがあるにせよ、コロナ禍を社会全体で乗り切っていくためには、前向きな方法で考えを相手に伝える必要がありそうだ。

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