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ファーウェイは“第3の道”で成功するか 「Tizen」「Firefox OS」……過去の失敗から可能性を探る(2/2 ページ)

» 2020年07月03日 17時00分 公開
[石野純也ITmedia]
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 ただし、これで十分ということはできない。代表的なのが決済サービスで、現状、App Galleryからダウンロードできるアプリで利用できるのは、コード決済の「LINE Pay」のみ。「PayPay」「d払い」「au Pay」「楽天ペイ」など、主要なコード決済アプリはいずれも非対応になる。HMS搭載端末は、いずれもFeliCaに対応していないため、iDやQUICPay、モバイルSuicaなども利用できない。

LINE Payは利用できるが、それ以外のサービスは見当たらない

 同様に、銀行やクレジットカードなどの金融機関が提供するアプリもほぼ全滅。航空会社や各種百貨店、タクシー配車……と、日常生活に密着したアプリが大きく欠けている傾向が分かる。映像系サービスも少なく、先に挙げたU-NEXTは対応している一方で、「Netflix」もなければ、日本発の「TVer」もない。あまりにアプリが少ないため、機種変更時のセットアップがすぐに終わってしまうほどだ。

 これ1台で、今までのスマートフォンと同じような使い方をするのは、まだまだ難しいというのが現時点での結論になる。P40 lite 5Gは、4万を下回る価格で1/1.7型のセンサーを搭載するなど、コストパフォーマンスは抜群に高いため、サブ端末として使う分には満足度が高いものの、スマートフォンの2台持ちをするユーザーは限定的だ。カメラの性能は確かに高い一方で、プラットフォームを変えるほどの動機になるかというと、そこには疑問符をつけざるを得ない。

市場規模、中国市場、時代の変化――過去との決定的な違いも

 一方で、これはあくまで現時点での話。今はまだサービス開始から約3カ月で、これからアプリが増えていく可能性は十分ある。また、過去の第3のOSとは、決定的な違いもある。1つ目が、端末の数の多さだ。ご存じの通り、ファーウェイは世界第2位のスマートフォンメーカーで、19年の出荷台数は2億4000万台にのぼる。この数字にはGMS搭載Android端末が多く含まれている点には留意が必要だが、App Galleryはそうした端末にも搭載されているため、開発者にとっては効果的にアプリを届ける場になる。

世界シェア2位のメーカーとして、母数が大きい。スタート地点が違うといえるだろう

 2つ目の違いが、巨大な中国市場で足場を固めているということだ。国策でGoogleが締め出されている中国では、もともとAndroid端末にGMSが搭載されていないが、年間のスマートフォン販売台数は3億6000万台(IDC調べ)を超える。この巨大市場でトップシェアを取っているのが、他でもないファーウェイだ。HMSが理由で販売が減速する恐れはなく、仮に他国でHMSの普及が伸び悩んだとしても、プラットフォームとして成立するだけの十分な規模になる。

 同時に、中国市場に進出したいアプリ開発者にとって、App Galleryが中国市場への足掛かりになる。中国対応のためにApp Galleryでアプリを配信しつつ、その他の市場にも“ついでに”対応するようになれば、プラットフォームとしての魅力が増すはずだ。実際、ペイントアプリの「アイビスペイント」を開発するアイビスの担当者は、P40 Pro 5Gの発表会で、「中国ユーザーの獲得に期待している」と語っている。

アイビスペイントは、中国市場での配信を狙ってApp Galleryに登録されたという

 3点目の違いが、時代の変化だ。iOSのApp Storeや、AndroidのGoogle Playは、グローバルで配信でき、強力な販路だが、基本的な手数料が30%と高額だ。この手数料を避けるため、アプリ提供者はアプリ内課金を利用しなかったり、アプリストア経由での支払いだけ利用料を高く設定していたりするケースも徐々に増えている。6月にはECの欧州委員会は、独占禁止法違反でAppleやGoogleの調査を開始するなど、開発者の不満を反映した動きも顕在化している。仮にファーウェイが手数料体系などで大胆な手を打てば、開発者を呼び込める可能性もありそうだ。

 すでにユーザーが多く、中国ではそれが減る気配もない。そこを狙った開発者がアプリを投入すれば、日本を含めた他の国のApp Galleryも魅力になる。過去に日の目を見なかった第3のプラットフォームが陥った悪循環とは異なり、好循環が生まれる可能性も十分考えられる。制裁発動からの1年間で、業績が低迷するどころか、むしろ販売台数を増やしたファーウェイの底力を見ていると、App GalleryやHMSをiOSやAndroidへの対抗馬に育てられるのではないかとも思えてくる。

米国は「ハードウェアに対する制限」で追撃

 とはいえ、制裁を科す側の米国も、この状況を傍観しているわけではない。ファーウェイがApp GalleryやHMSで第3の道を進み始めた矢先に、次の一手として、チップセットの調達に歯止めをかける手を打ち、台湾の半導体ファウンドリであるTSMCとファーウェイとの取引に制限がかかった。

 これによって、ファーウェイ傘下の中国HiSiliconが設計する「Kirin」の製造が困難になる。米国企業のQualcommからもチップセットが調達できないファーウェイにとって、Kirinは命綱だった。ファーウェイが“第3の道”を進むなら、その道ごと破壊してしまうのが米国流というわけだ。根元を断つ戦術を取った米国に対し、ファーウェイがどのように対抗するのかも注目しておきたい。

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