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セガが構想する“フォグゲーミング”とは何か? 「セガがXbox発売?」噂の発端となってしまった西川善司が種明かしをしようクラウドゲーミング? いいえ、フォグゲーミングです(4/4 ページ)

» 2020年07月21日 14時39分 公開
[西川善司ITmedia]
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「フォグゲーミング」とは何か?

 クラウドゲーミングが抱える(I)(II)、この2つの問題について、日本全国に約200店舗の直営及び系列のゲームセンターを展開しているセガが、独創的な解消策を提唱した。

 それは、「ゲームセンターのネットワーク網」を使うこと。

 セガのゲームセンターは、比較的人が多く住んでいる町の近隣には高確率で存在する。しかも、現在、セガ系列ゲームセンター間は「ALL.Net」(Amusement Linkage Live Network)と呼ばれる店舗間ネットワークは全てIPv6に移行を完了し、実効伝送帯域で800Mbpsの高速ネットワーク網で相互接続されている。

photo セガのプレスリリース

 この基盤ネットワークを活用しつつ、各ゲームセンターの店舗にサーバ/コンピュータを設置することで、クラウドゲーミングが抱える(I)の遅延の問題を解消していこう……というのがセガの考案した新アイデアになる。

 「ゲームセンターの店舗にサーバ/コンピュータを設置する? どういうこと?」……直感的に理解できないのも無理はない。

 順を追って解説する必要があるだろう。

 現在、ゲームセンターのゲーム筐体の中には高性能なCPUやGPU、高速なメモリシステム、ストレージシステムを搭載したコンピュータ基板が搭載されている。これをクラウドゲーミング的に活用してはどうか。セガの新アイデアの着想はここが起点となっている。

 ゲームセンターに設置されたゲーム筐体の前に座ってプレイするお客さんだけでなく、そのゲームセンター周辺に住むゲームファンにクラウドゲーミング的なゲーム体験を提供することができれば、(I)の「ユーザーとサーバ間の距離に起因した遅延」を解消できることになる。

 どのくらいの遅延解消が見込めるのか。ざっと概算してみよう。

 例えば東京大阪間は直線距離は400km。しかし地形の都合で通信ケーブルの実距離は約500km程度となる。光ファイバーを伝う光は、その材質たる石英ガラスの屈折率(屈折率1.5)の影響で速度が減退して秒速20万km程度(≒秒速30万km÷屈折率1.5)になってしまう。ということで片道の伝送速度は500km÷20万km/s=2.5ms。理論値としての通信遅延は往復で換算されるので理論値にして5msとなる。距離が長いと中継処理が介在するのでもっと遅くなる。

 一方、最寄りのゲームセンターを、遠目に20kmと設定して、同じ計算をするとその遅延は0.2msとなる。10kmならば0.1ms、5kmならば0.05msだ。距離が短いと中継の回数も減り実効遅延は理論値に近くなる。クラウドゲーミングで問題となる距離に起因した遅延問題はかなり解消できそうなことがわかる。

 この「ユーザーの位置に近い場所にサーバを置いて、コンピューティングサービスを提供する仕組み」を最近では「フォグ」コンピューティングと呼ぶ。そこで、セガは、こうしたコンピューティングシステムでゲームを提供するサービスを「クラウド」ゲーミングへの対抗キーワードとして「フォグ」ゲーミングとして命名することとした。

 フォグコンピーティングは、近年「エッジ」コンピューティングとともに急速に台頭しているキーワードだ。コンピュータネットワークの概念において、どちらもクラウドとユーザーとの間に入るコンピュータシステムであり、中央システム的なクラウドの負荷軽減のために設置される。フォグコンピーティングとエッジコンピューティング、互いの意味の違いは、新造語であるがゆえに曖昧で専門家によっても解釈が違うが、「ユーザーにより近い距離感のものがエッジコンピューティング」「クラウドに近いのがフォグコンピーティング」と解釈している専門家が多いようだ。

 対して「クラウド」(Cloud)は雲の意を持つ英単語だ。ネットワーク上のサーバ/コンピュータのサービスをなぜ「クラウド」と呼ぶようになったかは定かではないが「どこにでもある(≒どこからも使える)存在」「にもかかわらず自分の手元にはなく、空の上にある雲のような存在」といった説明が有力である。

 確かにこのセガの「フォグゲーミング」というアイデアは、手元にない「つかみどころのない存在のコンピュータ(ゲーミング)システム」という意味において「クラウドゲーミング」に近いイメージだが、ユーザーから遠い「雲」(Cloud)よりも近い「霧」(Fog)のほうが、よくそのシステムの構造の特性を体現できていると思う。

photo クラウドゲーミングとフォグゲーミングの概念図

後編に続く)

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