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「たかがケース」とあなどることなかれ 奥深い「自作キーボードケース」の世界ハロー、自作キーボードワールド 第7回(2/3 ページ)

» 2020年08月20日 07時00分 公開
[びあっこITmedia]

価格差を超えてケースにこだわる理由

 ケースにこだわる理由の一つとして明らかなのはそのデザインだ。キーキャップ同様、キーボードの外見のかなりの範囲を占めるケースは意匠性が高く、カラーバリエーションや仕上げの選択肢が豊富であることも多い。今回紹介したアクリルやアルミ以外に木材を用いたケースなどもあり、好みの外観や手触りはその価格を乗り越えてまでもこだわる理由になる。

木製のキーボードケースとパームレスト(遊舎工房より引用)。遊舎工房で9000円で販売中。製造コストを考えれば安いくらいだが、やはり安価な製品ではない。それでも素材にこだわるのは万年筆などの趣味とも似ている

 そして、ケースにこだわるもう一つの重要な理由が打鍵感(打鍵時に手が受ける感触)や打鍵音(打鍵時の音)だ。キーボードにおいて打鍵感や打鍵音にはさまざまな要素が絡み合う。その中でも代表的なものがキースイッチだが、自作キーボードマニアの間でキースイッチと並んで打鍵感などに影響するとされているのがケースだ。そのため、高価であっても至極の打鍵感や打鍵音を求めて買い求める人が後を立たない。

ケースで打鍵感や打鍵音はどれくらい変わる?

 ここからは打鍵感と打鍵音についてもう少し詳しく説明したい。キースイッチでは「リニア」「タクタイル」「クリッキー」などに分類される、大まかな押し心地や滑らかさなどの違いが打鍵感に影響を与えるが、ケースでは主にキーを最後まで押し込んだときの「底打ち」の硬さが評価ポイントになってくる。

 この底打ちの硬さについては一般的に柔らかいものがよいとされており、スイッチを固定する機構にクッション性のある素材を用いたり、板バネを入れたりといった工夫が見られるようになっている。ケースは金属製よりアクリル製の方が底打ちも柔らかい傾向にある。

 打鍵音に関してはもっと複雑だ。そもそも個人の好みの違いも大きいため単純には比較できないが、基本的にはキースイッチと同じく「ノイズが少ない」ことが良い打鍵音といわれる。具体的にはバネの擦れや底打ちなどの衝撃によって発生するキンキンとした高音の共鳴が少ないことや、過度な残響音が少ないことなどが挙げられる。

 記事冒頭で挙げたPolarisのような、最近の比較的高価な自作キーボードでは、これらのノイズを抑えるためアルミケースに真ちゅう製の重りをつけることで重量を増して不要な振動・共鳴を抑えたり、吸音性の素材をケース内に入れてノイズを吸収したりといった工夫がみられる。

 高品質なケースに潤滑油(ルブ)を施したキースイッチと高品質なキーキャップを取り付けたキーボードではノイズが少なく「コトコトコト……」といった落ち着いた音が鳴る。その打鍵音の心地よさから「打鍵音 ASMR動画」(ASMR:ある音を聞いたときにとても心地よく感じる感覚のこと)といわれるようなカテゴリーもある。例えばTaeha TypesというYouTubeチャンネルでは多数のキーボードの打鍵音動画が公開されている。ぜひ実際に「高級な音」を聴いて体験してみてほしい。

Keycult No.1 with lubed Tealios Typing Sounds

自作キーボードケースの二大潮流

 ここまで、「ケース」に求められるデザインや打鍵感・打鍵音について説明してきた。ここからは、冒頭に紹介した2つのキットにあったような「アクリルサンドイッチ」系ケースと「金属削り出し」系ケースの二大潮流について、その構造とメリット・デメリット、気になる価格帯を交えて解説しよう。

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