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「どこからがAI?」「越えてはいけないルールは?」 AI規制の最前線、日欧のキーパーソンが解説(2/3 ページ)

» 2020年10月28日 12時00分 公開
[石井徹ITmedia]

「何がAIか」も焦点に

 現時点のAI規制に関しては日本、EUともに基本的な理念をまとめた段階にとどまっている。両者が次の段階として見据えているのは、理念に沿ったAI規制の枠組みの策定だ。

 AI技術の規制案は、EUが2020年に大枠を公表する方針で、日本も独自の規制策定に向けて動いている。両者は国際協力の一環として、AI活用の事例共有や規制の検討などを共同で行っている。

アイルランド国立大学コーク校データ分析センター所長のバリー・オサリヴァン氏

 AI規制を巡っては「何が規制対象となるのか」は、実は難しい問題だ。欧州のAIガイドラインの策定に携わったアイルランド国立大学コーク校データ分析センター所長のバリー・オサリヴァン氏は、「何がAIなのか」に対する厳密な共通見解が存在しない」と指摘する。

 狭義のAIは機械学習やディープラーニングのような計算技術を指すが、一方で広い意味での「AI技術」を考える際、どのように定義し、どのように規制するべきかは難しい。汎用的な計算技術であり、日々新しい応用事例が開発されている状況にあるからだ。

 さらに、AI技術の応用事例は、使い方や事業主体によっても社会に与えるリスクが変動するため、リスク分析も困難となる。規制の際には社会に与えるインパクトを検証し、規制対象とすべきAI技術を明確に定義していく必要がある。

 EUではAI規制について、リスク別の分類を行う方針だ。現時点では「社会や消費者に対する安全性」に関わるAI技術に重点的な規制を導入し、それ以外のAI技術には自主的なラベリング表示の義務づけなど、緩い規制で対応する。

 日本政府では、AI分野においては「ゴールベースの規制」を導入する見解を示している。その大要は、AI技術がガイドラインや業界標準を順守していることを企業に説明させ、ルールを逸脱しない範囲において、技術開発の余地を残すというものだ。政府ではAI技術において実績のある企業を認定し、ゴールベースの規制を認めるプログラムの導入も検討している。

 日欧では規制に併せて標準化についても国際協力を進めている。人権主義を取る両者が協力し、国際規格の策定にも積極的に関与していく方針だ。

AI事業者の立場からの要望も 現状のガイドラインは「具体性に欠ける」

 AIに携わる事業者の立場からは、富士通、NECとフランスの大手電機企業タレスの3社が意見を交わした。

 富士通からはAIデジタルテクノロジー推進法務室長の荒堀淳一氏が登壇。荒堀氏はAIガバナンスの企画立案を業務として担当しており、「富士通グループAIコミットメント」(https://pr.fujitsu.com/jp/news/2019/03/13-1.html)の策定に携わった。同社の価値観では、AI技術だけでなく、生命倫理や法学、環境、消費者分野の有識者が外部委員会を組織し、事業を監査するとしている。取締役会との連携を通じてコーポレート・ガバナンスとAIガバナンスを連動させているのも特徴だ。

富士通 AIデジタルテクノロジー推進法務室長の荒堀淳一氏

 荒堀氏が現在のAI倫理分野において課題と指摘したのは「具体性に欠ける」という点だ。行政機関や企業に制定したAIガイドラインでは、人権に配慮するといった理念的な内容が主体で、実際の事業で適用するにはもう一段の具体化が必要となる。富士通では待機児童への保育園の割り当てにAIを活用しているが、この事業化に当たっては、公正性と倫理面の観点から具体的な基準を定め、検証を行ったという。

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