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「どこからがAI?」「越えてはいけないルールは?」 AI規制の最前線、日欧のキーパーソンが解説(3/3 ページ)

» 2020年10月28日 12時00分 公開
[石井徹ITmedia]
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「決めすぎないこと」も重要

NEC 技術イノベーション戦略本部 標準化推進部の江川尚志氏

 NECの江川尚志氏(技術イノベーション戦略本部 標準化推進部)も荒堀氏の見解に共感する。「理念の具体化のためにも、国際標準の策定が役立つ」と主張した。

 一方で、技術的に未熟なAIのガバナンスを巡っては「決めすぎないこと」も重要と指摘する。江川氏は90年代のインターネット隆盛期の経験をふり返り「インターネットジャイアントと呼ばれる存在が登場し、政府の統制も及ばなくなり、ありとあらゆる情報を握る社会が到来した。こうなるとは、あのとき大多数の人は予想していなかった」と言及。AI技術で今後同様の道をたどらないように、規制を柔軟に定める必要があると示唆した。

タレスは「説明できるAI」を重視

タレスのダヴィッド・サデック副社長(開発技術革新担当)

 仏タレスからはダヴィッド・サデック副社長(開発技術革新担当)が登壇した。同社は認証技術などのセキュリティ分野から、鉄道、航空宇宙といった社会インフラ、安全保障などを事業領域とする複合企業だ。

 タレスではAI活用の基本方針として、「信頼できるAI」であることを重視している。これはEUの基本原則に沿うもので、アルゴリズムの透明性やセキュリティ、説明可能性、倫理的な適合性に重きを置くものだ。

 なかでも、「説明可能なAI」に関しては、タレスは重点的に技術開発に取り組んでいるという。AIによるアルゴリズムが「なぜその結果を予測したのか」を説明できなければ、事故が発生した際に原因を分析することができない。そのブラックボックス化を防ぐためにも、AIの選択の根拠を示す技術は重要となる。

 サデック副社長は「タレスは規制が厳格なセキュリティ、運輸、航空宇宙といった事業ドメインで展開している。それらの分野では厳しい安全基準に従っているが、AIを導入する場合も、それに従うのは変わらない」と説明。技術的なハードルが高くなる倫理的なAIを開発する企業に対し、行政からの支援するよう期待を示した。

AIルール策定は人類全体のルール作り

 第3次AIブームで花開いたAI関連技術は、未だ発展途上だ。技術がより高度になり、社会に浸透していくにつれて、人間の生命や倫理的に直結する問題が浮上してくるのは避けられないだろう。日本やEUのような人権を尊重する国々がAIの規制作りに取り組むのは、AI社会を人にとってもより良いものとするために必要な準備といえる。

 富士通の荒堀氏は「AIガバナンスは産業界のためではなく、AIを利用する人類にとってのルール作りだ」と強調。日本の産業界は視座を高くして、先進的な議論を取り入れていく必要があると主張した。

 経産省の泉氏はAI規制の国際協力においては「重層的な対話」が重要になると指摘する。政府レベルでのディスカッションだけでなく、学術界や産業界での実務者レベルでもお互いの知識を共有するべきだと話した。

 EUのバディケ氏も泉氏の主張に共感。「AIガバナンスを巡ってはG20やOECDでも議論の場がある。日本とEUが協力すれば非常に強い立場になるだろう。それぞれのリーダーの協力も期待している」とコメントした。

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