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米軍の教育でもAIが活躍 「アダプティブ・ラーニング」の可能性よくわかる人工知能の基礎知識(1/4 ページ)

» 2020年02月20日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 本連載では、AIの具体的な活用法について、業界・分野別に整理を行っている。今回は、教育業界の取り組みを見てみよう。

 教育は、最もイノベーションが遅れている分野の一つと評されることがある。1人の教師が多数の生徒に向かって講義をする形式は、江戸時代にあった「寺子屋」も含めると、日本で300年以上続くスタイルといえる。

 AIはこういった状況にどのような変化をもたらすのか。(1)学習者の支援、(2)教育者の支援、(3)周辺環境の改善――という3つの視点から整理してみたい。

連載:よくわかる人工知能の基礎知識

いまや毎日のようにAI(人工知能)の話題が飛び交っている。しかし、どれほどの人がAIについて正しく理解し、他人に説明できるほどの知識を持っているだろうか。本連載では「AIとは何か」といった根本的な問いから最新のAI活用事例まで、主にビジネスパーソン向けに“いまさら聞けないAIに関する話”を解説していく。

(編集:村上万純)

米軍も採用する「アダプティブ・ラーニング」の可能性

 まずは、学習者の支援から見ていこう。

 従来の講義形式の教育は、教師にとっては効率的だが、生徒一人一人にとっては「自分に合った速度で学習を進められない」というデメリットがある。マンツーマンの指導であれば生徒の理解度に合わせて教材を変えられるが、そうすると教師の負担が増えてしまう。生徒数に応じて、必要な人数の教師を常に集められるとも限らないだろう。

 デジタル技術を使えば、データを分析することで生徒一人一人の進捗(しんちょく)を把握し、次に取り組むべき最適な教材を見極めることが可能になる。これはルールベースでもある程度実現できるため、AIブーム以前からさまざまなデジタル教材が実用化されており、「アダプティブ・ラーニング」(Adaptive Learning、適応学習)という名前で普及が始まっている。

 このアダプティブ・ラーニングの精度をさらに高めるためにAIが使われている。AIによって、単純なルールベースではなく、より深く生徒の学習パターンを把握して、きめ細かなアドバイスができるようになる。

 例えば米サンフランシスコに拠点を置くCeregoは、機械学習と認知科学を応用したアダプティブ・ラーニングのプラットフォームを提供しており、多くの企業や組織が従業員の教育のために導入している。その中には米陸軍も含まれており、トレーニング時間を40%削減することに成功したという。

 2019年12月には、米空軍が同社のプラットフォームを基本軍事訓練(BMT)に活用するテストを実施すると発表。訓練生には米Microsoftのタブレット端末「Surface」が1人1台配布されることになった。

 AIは学習状況の分析だけでなく、その分析に役立つ情報を収集することにも活用される。

 これまでは、人間の教師が個々の学習者の進捗状況をチェックしていた。しかし、ある問題に正解したという情報だけでは、それをたやすく解いたのか、悩みながら解いたのか、あるいは学習を楽しんでいるかどうかまでは読み取れない。回答時間がその近似値となる場合もあるが、より正確で詳しい情報を把握するには、誰かが学習者のすぐそばにいて彼らの状況を見るしかなかった。

 これに対して、最近では顔認識や感情分析といった技術を使って学習者の状況を把握するシステムが登場している。例えば学習にタブレットやスマートフォンを利用する場合、本体内蔵のインカメラを使って学習者の顔を撮影する方法がある。その画像を分析して、彼らが集中しているかどうかや、特定の問題に対してどのような感情を抱いているかを把握し、アダプティブ・ラーニング実現の一助とするわけである。

 次の映像はスペインのEmotion Research Labが公開しているものだ。ここでは「チョコレートを食べて点数を付ける」という行動の中で発生する感情を、リアルタイムで把握している。言葉で表現する内容と、表情として現れる感情が一致するとは限らないのが分かる。こうしたAIによる心境の把握は、芸術や実技など、これまでデジタル化が難しかった学習の分野にもアダプティブ・ラーニングが浸透することを支援するだろう。

 米国のClasscraftは、ゲーミフィケーションとAIを活用して、RPG型の学習システムを提供している。他の生徒と協力する、前向きに学習に取り組むといった姿勢がAIで把握され、それに基づいてサービス内で「経験値」を得られる仕組みだ。

 今後の学習サービスでは、単なる学習の進捗だけでなく、学習者の心境や、他の学習者とどのような関係を築いているかなども、分析や管理の対象になっていくと考えられる。

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