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米軍の教育でもAIが活躍 「アダプティブ・ラーニング」の可能性よくわかる人工知能の基礎知識(2/4 ページ)

» 2020年02月20日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 学校や塾などの教育現場にとっては、講義形式の教育は効率性というメリットがある。一方で、誰かに何かを教える行為は簡単ではなく、義務教育レベルの現場では、学習者に対するさまざまなケアが必要になってくる。実際に多くの教育現場では、教師が多様な業務に忙殺されており、とてもマンツーマンに近い対応は行えないというのが実情だ。

 コンサルティング会社のマッキンゼーは19年1月、「How artificial intelligence will impact K-12 teachers」(人工知能はK-12教師にどのような影響を与えるか)と題するレポートを発表した。K-12とは、米国で幼稚園から高校までの教育課程を示す表現で、レポートでは大学より前の教育にAIがどう活用されるかを解説している。

 このレポートではまず、米国、英国、カナダ、シンガポールの4カ国で、K-12の教師たちが教育現場でどのように時間を使っているか分析している。それによれば、生徒とのやり取りに使われる時間は全体の49%だった。教育におけるテクノロジー活用が進んでいると考えられるこれらの先進国でも、およそ半分の時間が授業の準備や採点、事務作業などに費やされていた。

 さらにそのレポートは、教師が抱えるタスクの20〜40%(採点や授業計画の立案など)を、テクノロジーに置き換えられるのではないかと推定している。人間の教師は空いた時間で、生徒一人一人のケアをするなど、彼らにしかできない作業に集中できるようになるだろうという主張だ。

 例えば前述の米空軍の例では、BMTを担当する教官の負担が軽減されるという点も、期待されるメリットの一つに挙げられている。タブレットを通じて行われた学習やテストは即座に採点され、教官は一切の手間をかけることなく、リアルタイムで訓練生の学習状況を把握できる。

 もちろん従来でも、選択式のテストなどであれば、デジタル技術によって短時間で採点できた。昨今はAIを使ってより複雑な問題も処理できるようになってきている。例えば自然言語処理の技術を応用すれば、文章問題の採点も可能になる。

 面白いところでは、こうしたAIの判断力を生かして、生徒による剽窃(ひょうせつ)を把握するソフトウェアも登場している。例えばキプロス共和国の首都ニコシアに拠点を置くUnicheckは、自然言語処理とスタイロメトリー(文章のスタイルを統計的に分析して筆者を特定する手法)を活用して、論文内に「コピペ」がないかどうかをチェックする製品を提供している。剽窃は場合によっては、教師だけでなく教育機関全体にも影響を与えかねない行為であり、それを簡単に検知してくれるUnicheckのような製品は、いま一定の市場を形成しつつある。

 また「採点」や「評価」におけるAI活用の有効性を示す例として、教育分野ではないが、こんな事例も紹介しておきたい。それはAIによる体操競技の自動採点システムだ。

 これは富士通が開発している技術で、レーザーセンサーで選手の動きを三次元で把握し、得られたデータをAIで解析して、演技内容を数値化するというもの。人間の審査員が算出された数値を参考にし、最終的な採点を行う――という活用方法を想定している。

 なぜAIの活用が検討されているのか。理由の一つとして挙げられるのが、採点の複雑化と高度化だ。各国のトップ選手が競い合っているため、技の内容は複雑になる傾向があり、公式の採点規則資料はいまや200ページ以上に達している。機械であればそれを正確に把握して、さらにルールも頭に入れた上で判断を下してくれる。

 もう一つの理由が「公平性」だ。審判員は、公平中立な目でジャッジすることが求められる。AIは決められた範囲内であれば、一定のルールに基づいた処理をしてくれる。公平性は、他の採点や評価の領域でも価値を持つものだろう。単に教育者の負担を軽減するというだけでなく、AIの方が優れた判断をできるという理由からも、教育分野への普及が進むと考えられる。

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