このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
奈良先端科学技術大学院大学の研究チームが開発した「くすぐってみ〜な」(PDFへのリンク)は、自分で自分をくすぐっているのに、あたかも他人からくすぐられているかのような感覚を疑似的に得られるVRシステムだ。空気で膨らんだゴム手袋で触覚をごまかすことで自分と他人との境界を曖昧にし、臨場感を高めるという。
笑いには不安感やストレスを緩和する効果があるとされている。くすぐりで笑いを誘発する場合、他人にくすぐってもらう方法が適しているが、いつでもくすぐってもらえるとは限らない。もし他人の力を借りず自分自身でくすぐることができれば、自分のペースで笑いを誘発し、ストレスを1人で緩和できるのではないか。
そんな発想を実現するため、研究チームは自分自身だけで笑いを誘発させストレスを和らげるシステムを開発した。
体験者にはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着してもらい、バーチャルキャラクターが自分の手の動きに合わせて対面からくすぐってくる映像を見てもらう。自分自身の腋下をくすぐることで、あたかも自分をくすぐっているかのように錯覚させる。
さらに空気で膨らむゴム手袋を装着してもらうことで、身体に触れた際の感覚予測を狂わせ、自分が触っていないように錯覚させる。より臨場感を高めるために、ゴム手袋を常に膨らませ続けるのではなく、ランダムに収縮させているという。
5人に対して評価実験を実施した結果、3人は空気を入れるとよりくすぐったく感じたと回答。しかし、大きな効果は得られなかった。今後の改善として、指先だけ空気圧で膨らむバージョンと、指先に羽を付けたバージョンを検討するとしている。これらを複数人に試してもらう評価実験も実施する予定だ。
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