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「けしからん発想」が創造性を生む 天才プログラマー・登大遊氏が語る「シン・テレワークシステム」開発秘話(2/3 ページ)

» 2020年11月06日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

“真の理由”は創造性

 ただし登氏によると、シン・テレワークシステムを生み出すことができた“真の理由”は、技術やハードウェア面の工夫ではなく、学生生活や社会人生活を通じて創造性を培っていたことだという。創造性を伸ばすことができた背景には、所属する組織に、彼の振る舞いを「けしからん」と叱りながらも自由な取り組みとして黙認してくれる土壌があったからだとしている。

 例えば、筑波大学在籍中に開発したSoftEther自体が「けしからん」ものだった。というのは、SoftEtherを企業や自治体に無償配布し始めた約15年前、ユーザーから「VPNとしての性能が強力な割には、利用が簡単すぎてセキュリティに悪影響が出る」「自治体のファイアウォールを貫通した」などのクレームが舞い込んだという。それを受けた経済産業省が慌てて、登氏に配布停止の要請を出す事態になった(のちに配布を再開)。

photo 登氏が当時発表したプレスリリース

 他国の政府から「けしからん」と目を付けられることもあった。例えば、とある中国人ユーザーが、中国政府のネット検閲システム「グレートファイアウォール」を突破するためにSoftEtherを使用。検閲システムの管理者はこれを問題視し、中国のユーザーがSoftEtherを利用できないようにした。

 そこで登氏はSoftEtherを拡張し、中国政府が簡単に遮断できないようにした。これを受けて中国政府が対抗策を講じるなど、攻防は何度か続いたという。

 登氏は、こうしたトラブルを経験しながらも、めげることなく「もっと面白いことがやりたい」と発奮。筑波大学の研究室で飼っているハムスターの様子をネットで中継するなど、さまざまな研究を行った。独自の研究を行う中で、ネットワークの混雑などの問題をたびたび引き起こしたが、大学側は「また変な通信実験をしているのだろう。仕方ない……」と黙認してくれたという。

 登氏は学内での実験では満足できず、つくば、水戸、銀座、渋谷、丸の内、大手町、池袋のNTTビルに自前のネットワーク設備をコロケーションし、独自の実験用IP網を構築した。自前の広域網ということもあり、実験を自由に行えることから、街中でも数々の“遊び”を実施。実験のコストは、学内スタートアップとして起業したSoftEtherから得る利益でまかなった。このときに構築した超低遅延のネットワークがその後改良され、シン・テレワークを支えるバックボーンになっているという。

photo 実験用IP網の構築では、自らルート等を設計。フレッツの現場作業員とやりとりしながら敷設したという

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