「デジタル庁」設立に向けた議論に、法律の専門家からの異議が出た。
日本政府は、菅義偉首相の指示に基づき新組織「デジタル庁」を2021年にも新設し、官民からデータを集め官公庁のデジタル改革を推進する方針だ。その準備として「デジタル改革関連法案ワーキンググループ」がこの2020年10月から立ち上がり、IT基本法などデジタル庁に関連する法律の改正へ向けた議論が始まっている。
このワーキンググループの第2回会合(10月28日開催)で提案された「データ共同利用権(仮称)」に対して、情報法を専門とする鈴木正朝教授(新潟大学大学院現代社会文化研究科・法学部、一般財団法人情報法制研究所理事長、理化学研究所AIP客員主幹研究員)は「昨今まれに見る最悪の意見」と厳しい評価を下した。
鈴木教授は今までに個人情報保護法改正などに取り組み、自由な立場でプライバシー関連の社会問題を論じる「プライバシーフリークの会」の活動でも知られる。鈴木氏は「(提案は)ふわっとした書き方で、日本国憲法の定める基本的人権を書き換えようとしているにひとしく、語るに値しない」と話す。
一体、「データ共同利用権(仮称)」とはどのようなものか。
現時点での手掛かりは前出のワーキンググループの提案資料である。資料には「21世紀の基本的人権」として「公益性があるデータの共同利用」の「権利」を認めるという内容が書かれている。具体例として、本人同意を得ずに医療データを活用する取り組みを挙げている。
気になるのは、「基本的人権」という言葉だ。これは日本国憲法が定める基本的人権の書き換えを迫っているようにも読み取れる。人権とは決して奪えない個人の権利を指す言葉だ。
しかし、提案内容は公益のためのデータ利用を推進しようというもので、むしろ個人の権利であるプライバシーを一部制約しようとしているように見える。このような議論のために「人権」という言葉を持ち出したことは不適切だったのではないか。
この「データ共同利用権(仮称)」の真意について、提案者である宮田裕章教授(慶應大医学部)に取材を申し込んだが、今回の記事の締め切りまでに取材することはできなかった。
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