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“月経痛体験装置 vs. 本物の生理痛”──どれくらいリアルな痛みなのか? 奈良女などが100人以上で比較調査Innovative Tech

» 2026年03月12日 08時00分 公開

Innovative Tech:

2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2

 奈良女子大学などに所属する研究者らが発表した論文「月経痛 VR 体験装置の再現性の検討」は、月経痛体験装置による痛みの再現性を確かめ、感じ方に生じる個人差の要因を検討した研究報告だ。

月経痛体験装置を体験している様子

 月経痛は主観的な感覚であり、そのつらさを他者と共有することは難しい。この課題を解決するため、電気的筋肉刺激(EMS)を用いて腹直筋を収縮させ、月経特有の痛みを疑似的に再現する「月経痛VR体験装置」の開発が進められている。

(関連記事:月経痛と血の漏れを体験できるVR、奈良女などが開発 電気と温度で症状を再現

 この装置の効果は実証され、現在では小型デバイス「Perionoid」(ピリオノイド)を通じて2万人以上の男女が月経痛を体験し、月経症状への理解を深めるために活用されている。

月経痛VR体験装置「Perionoid」の概要図

 しかし、EMSによる刺激の感じ方には大きな個人差があり、同じ強さの電気を流しても体験者によって感じる痛みの度合いが異なるという運用上の課題があった。

 そこで、この装置が実際の月経痛をどの程度正確に再現できるのか、そして痛みの感じ方の違いが何に起因するのかを検証する実験が行われた。18〜25歳の女性117人を対象に、自身の実際の月経痛と、EMSによる痛みの強さを比較評価してもらった。

実験時に使用した月経痛VR体験装置

 その結果、参加者が感じる実際の月経痛の強さと、同等の痛みとして選ばれたEMSの強度には明らかな正の相関が認められた。つまり、この装置によって提示される痛みは、月経症状の痛みを一定程度再現できていることが示された。

 一方、同じ程度の月経痛を再現しようとしても、人によって必要となるEMSの強度には最大で±40%近くの大きなばらつきが生じることも判明した。この個人差の要因を探るため、参加者の体組成(脂肪や筋肉の量)との関係を分析したところ、次のような傾向が見られた。

 最も重い時の月経痛を再現するような比較的強い電気刺激を必要とする場合、体重や体脂肪量が多い人ほど、より強いEMS強度を必要とする傾向が確認された。これは、脂肪組織は電気を通しにくく、脂肪が多いほど痛みを感じにくくなるためだと考えられる。

 反対に、体幹(頭・腕・足を除いた胴体部分)の筋肉が発達している人ほど、比較的弱い刺激でも痛みを感じやすいという傾向も示唆された。ただし、これらの体組成の影響は、あくまで比較的強い刺激を与えた場合にのみ現れやすく、普段の月経痛を再現する程度の弱い刺激では、体脂肪や筋肉量が痛みの感じ方に与える影響は少ないと示されている。

体組成の各項目と、月経痛の主観的評価(VAS)、EMS強度との相関係数をまとめた表

 今後は、脂肪や筋肉といった体組成だけでなく、電気の通りやすさにより直接影響する皮膚の厚さや肌の水分量といった要因も視野に入れ、誰でもより正確に月経痛を体験できるよう検証するとしている。

Source and Image Credits: 佐藤 克成, 麻田 千尋, 和泉 慎太郎, 伊庭野 健造, 山岸 万里菜, 森田 恵美, 作田 真実, 高地 リベカ: 月経痛 VR 体験装置の再現性の検討, 情報処理学会 インタラクション2026, 1A02.



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