このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米エモリー大学に所属する研究者らが発表した論文「Where do We Poop? City-Wide Simulation of Defecation Behavior for Wastewater-Based Epidemiology」は、ウイルス感染状況をより正確に把握するために、「人々はどこでトイレに行くのか」を都市規模でシミュレーションした研究報告だ。
COVID-19のパンデミック以降、下水を検査して地域ごとの感染状況を監視する「下水サーベイランス」が世界中で行われるようになった。一人一人に検査を行わなくても、下水に含まれるウイルス量を調べるだけで街全体の流行具合が分かるからだ。
しかし、これまでの分析方法には一つ大きな落とし穴があった。それは、「人々は自宅でしかトイレに行かない」という、あまりにも現実離れした仮定に基づいて計算されていたことだ。
実際には、通勤や通学をし、レストランで食事をし、出先でトイレを利用する。研究チームが発表した「Where do We Poop?」(私たちはどこでウンチをするのか?)というユニークなタイトルの論文は、人の移動と生理現象をコンピュータ上でシミュレーションし、より正確な感染予測を行おうという試みだ。
このシミュレーションの最大の特徴は、バーチャル空間で暮らす1万人のキャラクター一人一人に、便意という生理的なリズムがプログラムされている点。キャラクターはただ移動するだけでなく、時間の経過とともに便意を催し、我慢の限界が近づくと、自宅・職場・外出先を問わず今いる場所のトイレを利用する。
もしそのキャラクターが感染者であれば、ウイルスを含んだ排せつ物がその地点の下水へと流される仕組み。さらに、感染の進行度合いによって、排せつされるウイルスの量が増えたり減ったりする変化まで細かく再現されている。このシミュレーションは、人間の日常行動を再現する「Patterns of Life」モデルを拡張している。
米国のジョージア州フルトン郡をモデルにシミュレーションを約1年間行ったところ、次のような結果が得られた。それは、「人が住んでいる場所」と「ウイルスが検出される場所」は必ずしも一致しないということ。
例えば、住人が少ないオフィス街や商業地域であっても、昼間に多くの人が集まりトイレを利用すれば、下水からは高い濃度のウイルスが検出され、逆に言えば、夜間の居住人口のデータだけを頼りに下水を分析しても、実際の感染拡大のリスクを見誤る可能性がある。
これらの結果は、単に下水を検査するだけでなく、背後にある人間の行動パターンや移動データを加味しなければ、感染状況を見誤るリスクがあることを示唆している。
Source and Image Credits: Amiri, Hossein, et al. “Where do We Poop? City-Wide Simulation of Defecation Behavior for Wastewater-Based Epidemiology.” arXiv preprint arXiv:2601.04231(2026).
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