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「IBM PC」がやってきた エストリッジ、シュタゲ、そして互換機の台頭“PC”あるいは“Personal Computer”と呼ばれるもの、その変遷を辿る(1/2 ページ)

» 2020年12月16日 08時00分 公開
[大原雄介ITmedia]

 「IBM PC」こと「IBM Model 5150」の開発にまつわる話は山ほど出ているので深堀りするつもりはないが、取りあえず関係ありそうなところだけかいつまんで説明しておきたい。

photo IBM PC。出典:IBM

 1980年、IBMのGSD(General Systems Division)の中にあるEntry Level Systemsという部隊のマネジャー兼GSD LabのDirectorだったビル・ロウ(ウィリアム・C・ロウ)氏は、CMC(全社経営委員会)に対してパーソナルコンピュータを作ることを提案する。ただしこのときにロウ氏が持ち込んだのは「Atari 800」であった。要するにAtari 800をIBMブランドで売りましょうという提案である。

 CMCはこれを拒否し、その代わりに独立したチームを作り、ここで全く新しい製品を自身で作ることをロウ氏に命じた。おまけにそのプロトタイプを30日以内に提示する、という期限まで設けられた。

 そこでロウ氏はGSDの中から12人(the Dirty Dozenと呼ばれた)の腕利きを選び出し、このチームにプロトタイプ作成を命じる。そのリーダーが、有名なフィリップ・ドン・エストリッジ氏である。

photo ドン・エストリッジ氏

 さてエストリッジ氏がいかに有能とはいえ、何もないところから1カ月でプロトタイプを作れるわけもない。幸運にもこの当時、GSDはちょうど「System/23 Datamaster」というマシンを開発していた(写真1)。

photo 写真1:右の女性の脇にあるのがSystem/23 Datamaster。ちなみに卓上型以外にデスクサイド型もあった。出典はIBM Archives

 このIBM Model 5120の歴史も語り始めると長いが、もともとGSDというかロウ氏は、IBM社内で「SCAMP」というマシンの試作に携わっていた。これは携帯型(持ち運びが可能という意味で、軽々と持ち運びできるの意味ではない)で、APLを実行するマシンというちょっと奇抜なコンセプトのものであるが、このSCAMPをベースにした、ある意味世界最初のポータブルコンピュータが1975年に出た「IBM Model 5100」である。「シュタインズ・ゲートのIBN5100の元になった機種」で分かる人には分かるらしい(ちなみに筆者には分からない)。

 1978年には改良型の「IBM Model 5110」、1980年には9インチCRTを搭載した「IBM Model 5120」が投入されており、System/23 Datamasterはこの後継にあたる。ただ大きな違いとして、SCAMP〜IBM Model 5120はPALM(Put All Logic in Microcode)プロセッサというIBM独自(というか、GSD独自)のCPUを搭載していたが、IBM Model 5120はこれに替えてIntel 8085を搭載していたことが挙げられる。

 8085は8080の延長にあるが、システム的にいえばClock Generatorの8224とBus Controllerの8228が不要になり、最小構成だとROM or EPROMとI/Oを集積した8355/8755、それとRAMとI/O、タイマーを集積した8156の3つのICだけでシステムを構築できたのが大きな特徴である。

 また、電源も5V単一(8080は5V/-5V/-12Vが必要だった)になり、回路をずっとコンパクトにできるようになった。

 System/23 Datamasterは、こうした8085の特徴を生かした、割と素直、というかあまりひねりのない構造になっていた(唯一目立って拡張されているのがメモリ搭載量で、バンク切り替え式で最大128KBまでサポートしている)。

 さて、プロトタイプはこのSystem/23 DataMasterから大きくは変わっていない(つまり8085ベース)と思われるが、実際の製品に当たっては16bit CPUを使うことを選択した。実は、System/23 Datamasterではメモリ搭載量を最大128KBまで増やしたものの、16KB単位でのバンク切り替えという方式はプログラマーには大変不評で、ソフトウェア開発でかなり苦労していた。

 ただその一方で回路そのものはSystem/23 Datamasterのものをそのまま流用したいという希望があり、それもあって外部バスが8bitだった8088を選択することになる。

 実際、8085と8088では周辺回路がほぼ共通だった。違いとしては、再びClock Generator(Intel 8284)とBus Controller(Intel 8288)が必要になったこと程度だろうか。厳密に言えば、4本の割り込み線がサポートされていた8085に対し8086/8088では割り込みが1本になったので、システムを構築しようとすると外部にInterrupt Controllerの8259が必要になったが、これは8085でもちょっと大きめのシステムだと同じく8259を併用していたから実質大きな差はない。結果、System/23 Datamasterの回路のかなりの部分を踏襲する格好でIBM PCの回路は構成された(写真2)。これはIntelのReferenceにかなり近い回路構成ではある。

photo 写真2:IBM 5150 Technical Referenceに掲載された内部ブロック図(Figure 2)
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