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携帯電話「頭金」の正体 歪んだ仕組みが生まれたワケ(2/3 ページ)

» 2021年01月05日 11時00分 公開
[迎悟ITmedia]

上乗せをしないといけない理由

 では、なぜ“頭金”と称し代理店・販売店は携帯電話の本体価格に上乗せしているのか。これには理由がある。販売の経緯をさかのぼって解説しよう。

 まず、携帯電話の販売に頭金という仕組みが出てきたのは2006年〜07年ごろまでさかのぼる。

 当時、総務省では移動体通信市場における現行ビジネスの見直しを目的とした「モバイルビジネス研究会」が始まり、その報告の結果として「通信料の値下げ」や「販売奨励金の見直し」を行うよう携帯キャリア各社に要請。

 その結果として、キャリア各社は同年に発売になった機種から、通信料の値下げと本体価格の値上げを行い、さらに代理店に支払われる販売奨励金(インセンティブ)の見直しを行った。

 本体価格の値上げと販売奨励金の見直しは、それまで慣例として行われてきた「新規契約一括0円」といった販売を難しくし、とにかく台数を販売することで得られるインセンティブを収益の柱にしていた代理店にとっては、収益が大きく減る可能性があった。

 利用者視点でも、本体価格が上がることで買い替えがしづらくなることを危惧する声は大きかった。結果として携帯電話各社で本体代金を分割し、値下がった通信料と組み合わせることで「従来通りの利用料」で最新機種の購入、利用ができる仕組みが整備された。

 しかし、分割での支払いは12〜24回と長期間にわたるため、ユーザーを縛り付ける要因にもなり、買い替え頻度が下がれば代理店としてはやはり収益減になる恐れがあった。

 そこで、「一定の金額を店頭で支払ってもらい利益確保を行う仕組み」として生まれたのが、携帯電話の歪んだ頭金の正体だ。

 筆者自身、2008年から携帯電話販売に携わり、ちょうど分割払いや頭金の仕組みが取り入れられた直後で困惑した覚えがある。今となっては歪んでいるといえる、携帯電話ならではの“頭金”をお客さまに理解いただくのにはかなり苦労した。

 さらに現在も、この“頭金”の仕組みが残るどころか、以前よりも高額になっている店舗すらある。これにも理由がある。

“頭金”を値引く「オプション加入」が今はない

 少し前までは、“頭金”については「オプションサービスの加入」で値引きを行う販売が一部店舗で常態化していた。

 こうしたオプションサービスは、初月無料ながら2カ月目から月々数百円の利用料が発生するものであるため、ユーザーが外し忘れた場合に予想外の高額な請求につながる恐れがあった。

 総務省はこれについても問題視。総務省からの要請があったため、現在の販売店ではオプションサービスの半ば強制的な加入訴求は禁止されている。

 なぜ、オプションサービスの加入で“頭金”の割引ができていたのか。店頭でユーザーが同サービスに加入した数に応じて、値引いた額以上に代理店にインセンティブがキャリア、もしくはサービス運営会社などから支払われる仕組みになっていたからだ。

 例えば、月額300円のオプションサービスを1つ獲得すると1000円が代理店に支払われるとしよう。オプションサービスに加入しない場合の“頭金”は5000円とする。店頭では10個のオプションサービスに入ってもらう場合は、“頭金”0円からさらに5000円を値引く。

 ユーザーは300円のオプションが10個で3000円の負担となるが、“頭金”がなく、さらに値引き額の方が大きいためオプションに加入しないよりも得になる。代理店も1000円のインセンティブが10個分で1万円になり、5000円の値引きを行っても“頭金”の5000円をユーザーから得た場合と同じだけの収益が発生する。

【修正履歴:2021年1月5日午後5時 オプションサービス加入/非加入のケースについて表現を修正しました】

 オプションサービスの獲得を条件とした“頭金”値引きは、ユーザーのオプションサービスの外し忘れさえなければ、ユーザーも代理店もお互いに得をする仕組みだったのだ。もちろん、それでもインセンティブが出ていたのはユーザーの外し忘れが相当にあると踏んでのことと思われるが。

 先にも書いたように、オプションサービスの加入を強制するような販売は禁止されているため、インセンティブで代理店が利益を確保するのは難しくなっている。

 さらに携帯電話の本体価格が上昇し、長期的にソフトウェアアップデートが行われ製品寿命が長くなった現在、買い替えサイクルは鈍化している。代理店としては利益確保のために、“頭金”を取っていかないと経営が成り立たないという現状があるのだ。

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