このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
東京大学先端科学技術研究センターの稲見・檜山・瓜生研究室と、台湾の成功大学、台北科技大学による研究チームが共同開発した「T-Leap」は、遠隔地にいる人同士が散歩している感覚が得られるウェアラブルテレプレゼンスシステムだ。
360度カメラを装着した状態で外を歩く人(屋外探索者、Nodes)と、撮影される映像を屋内でディスプレイ越しに見る人(遠隔接続者、Viewer)をつなぐ。360度カメラが顔のすぐ横にあるため、前を向くと並んで歩いている感覚を得られる。また遠隔接続者は、切り替えながら複数人との遠隔体験を同時に行える。
屋外探索者は、ノートPCが入ったバックパックから、チョウチンアンコウのように後方から前方へつるす形で360度カメラが設置されるため、ハンズフリーになる。先端にはマイク・スピーカーモジュールとLEDライトも組み込まれている。
遠隔接続者は、ノートPCのWebブラウザから専用のWebアプリケーションを通して360度カメラからのリアルタイム映像を見られる。マイクとスピーカーによる音声会話も行える。
360度カメラは、屋外探索者の顔の横18〜23cmに配置されているため、前に視点を合わせると映像の右端に横顔が映り込み、2人で歩いているような臨場感を提供できるという。
遠隔接続者の見ている方向に合わせてLEDライトが点灯するため、屋外探索者はどの方向を見ているかを直感的に把握できる。
さらに、このシステムは遠隔接続者1人が、複数の屋外探索者を切り替えながら同時体験もできる。閲覧するブラウザ上のインタフェースも、右にメイン画面、左に他の人のサブ画面を待機させ、いつでもメイン画面と交換可能にしている。
台北市内で行った検証では、現地(台北)に詳しくない屋外探索者(現地語である中国語を話せない観光客役)と、現地に詳しい遠隔接続者(中国語を話せる現地人)に分かれ、遠隔から指示を出しながら買い物やタクシーの乗車、ナビゲーションなどのタスクを行った。
タクシーの乗車では、遠隔接続者が拾う場所から、乗車の方法、行先を運転手に伝えるなど現地のルールを含め屋外探索者に指示した。買い物では、遠隔接続者が中国語で現地の人とコミュニケーションを円滑に行い、購入までのやりとりをサポートした。
結果、屋外探索者は安心して現地を体験できたのに加え、目的のタスクを最短で終えたことに満足していた。また買う物をアドバイスするなど、まるで一緒に買い物をしているかのような疑似体験を生み出したという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR