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AWS、商用サービス化を制限するライセンス変更に対抗し「Elasticsearch」をフォーク 独自のオープンソース版へ(2/2 ページ)

» 2021年01月26日 17時12分 公開
[新野淳一ITmedia]
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Elasticsearchは2つに分裂していく可能性

 AWSは、Elastic社が2019年にオープンソースのElasticsearchのコードと一緒に、Elastic社が有償で提供している機能「X-Pack」のコードを商用ライセンスで公開したときに、オープンソースのコード部分だけを集めた独自のディストリビューション「Open Distro for Elasticsearch」を作成しました。

 これが今回のAWSによる独自ディストリビューションの基礎となっています。

参考記事:AWSが、Elasticsearchのコードにはプロプライエタリが混在しているとして、OSSだけで構成される「Open Distro for Elasticsearch」を作成し公開

 AWSはこの2019年当時、「Open Distro for Elasticsearch」は「フォークではない」と明示していました。この時点では、AWSはElasticsearchに対する独自の機能追加やバグフィクスをするつもりがなかったことを示していたはずです。

 しかし今回、AWSは「Open Distro for Elasticsearch」がライセンス変更前のElasticsearchとKibanaのフォークであるとはっきり表現しました。そして継続的にバグ修正や新機能、機能拡張を提供していくと書いています。

 ブログの中で「AWSはこれまでどおり、OSSに対しての貢献を継続していきます」とも書いていますが、(ライセンス変更後のElasticsearchとKibanaはオープンソースではなくなり)Elasticsearchのオープンソース版はAWSの「Open Distro for Elasticsearch」であるため、そのオープンソースに貢献していくことを(ある意味で巧妙に)表現していると言えます。

 今後のAWSの開発方針によっては、ElasticsearchとKibanaは、Elastic社版とAWS版にそれぞれ異なる方向へと分裂していく可能性もあるでしょう。

Elastic社もよりよいライセンスを模索

 Elastic社は今回、ElasticsearchとKibanaのライセンスをApache 2.0から「Server Side Public License」(SSPL)と「Elastic License」のデュアルライセンスへ変更することを発表しましたが、デュアルライセンスではなくもっとシンプルなライセンスによる商用サービスの制限も検討していることを表明しています。

 そのライセンスはMariaDBが作った「Business Source License 1.1」(BSL)です。MariaDBだけでなくCockroachDBも採用しています。

参考記事:オープンソースのCockroachDBも大手クラウドに反発してライセンスを変更、商用サービスでの利用を制限。ただし3年後にオープンソースに戻る期限付き

 これは利用者が自身のためにソースコードのコピー、改変、派生物の作成、再配布などが許されている一方、下記の様に、許可のないサービスの提供を制限し、サブスクリプション契約のないユーザーは有償機能の改変を許さず、商標の削除や置き換えなども許可しない、といった内容です。

  1. You may not use the licensed work to provide an "Elasticsearch/Kibana as a Service" offering.
  2. You may not hack the software to enable our paid features without a subscription.
  3. You may not remove, replace or hide the Elastic branding and trademarks from the product. (e.g. do not replace logos, etc).

 Elastic社はこのBSLを最新のソースコードに3年から5年程度の期限付きで設定し、期限後は自動的にApache 2.0ライセンスに置き換わるようにすることで、より緩やかなライセンス設定にできるのではないかと検討しているとのこと(CockroachDBも期限付きBSLを設定しています)。

 BSLはOpen Source Initiativeが認めるオープンソースライセンスではないものの、Open Source Initiativeの創立者であるBruce Perens氏が2017年に一定の評価をしていることが本人のブログに記されています。

 今後もしかしたら、Open Source Initiativeが認めるオープンソースライセンスでありつつ、商業サービスとしての利用を制限できるようなライセンスが生まれるかもしれません。

 そうしたライセンスが広まれば、AWSをはじめとするクラウドベンダーにとっては現在より面倒な状況になりかねません。

 AWSはElasticsearchとKibanaのフォークを作成する理由として「To help keep Elasticsearch and Kibana open for everyone,」と書いています。しかしそのオープンさをこれまで支えてきた開発者やコミュニティーとの対話が十分であったようには見えません。

 AWSが今回Elastic社に歩み寄らなかったことで、長期的にはオープンソース開発者やコミュニティーの反発を引き起こし、例えばBSLのようなライセンスがオープンソースライセンスとして認められ、自社のビジネスを面倒な状況へ追い込んでしまう可能性を高めてしまうのではないか。今回の動きはAWSが顧客とビジネスを優先させるあまりに、そんな悪手を打ったようにも見えます。

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