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望遠レンズによる圧縮効果はなぜ非難されるのか その背景を考える(1/2 ページ)

» 2021年02月05日 10時46分 公開
[小寺信良ITmedia]

 1月7日、1都3県に緊急事態宣言が出された。明けて8日の新聞各社は、通勤者が大して減っていないことを報じていた。

photo 緊急事態宣言

 ところがこの報道で使われた写真について、望遠レンズの圧縮効果を狙った「演出」であるという非難がTwitterで上がってきた。

 確かに望遠レンズで撮影すれば、いわゆるパース感がなくなって平面的になるので、縦方向に長い距離にあるものを、1枚の画像の中に入れ込むことができる。

 こうした撮影方法に対する批判に、新聞社のカメラマンが反論記事を書いたことで、より反発が強まっている。

 筆者はこの騒動に、何かしっくりこないものを感じている。今回はそのしっくりこないのは何かを考えてみる。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年2月1日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから

カメラマンの責任?

 毎日新聞のカメラマンの寄稿を見て、おやと思った部分がある。引用する。

この時は結局、9枚の写真を使ったウェブ記事にすることになり、両方の写真を載せることができた。しかし、新聞紙面では1枚しか使わないことがほとんどだ。どちらか選べと言われたら、相当悩んだだろう。

 このことから、記事に掲載する写真はカメラマンが選んでいるということが推察できる。筆者は報道経験がそれなりに長いが、テレビ報道しか経験しておらず、紙の報道経験がない。紙の報道では、記事に掲載する写真はカメラマンが選ぶのかという、素朴な驚きがあった。

 テレビの報道では、編集にカメラマンは立ち合わないので、どのカットをどのように使うのかは編集者が決める。もちろん取材にはディレクターや記者が一緒に行っており、彼ら彼女らは映像に合わせてナレーション原稿を書かなければならないので編集にも立ち会うのだが、どのカットを使うかまでは指示しない。

 紙の報道ではカメラマンが掲載写真を選ぶとしたら、本文を書いている記者とはどういう打ち合わせになっているのだろうか。現場での取材時では、どういう内容になるのかはざっくりしか決まってないので、いろんな写真を撮影しているはずだ。記事を書くのは記者であり、当然記事が書き上がってからそこに写真を当てることになる。

 そうなると、本文に則した、あるいは分かりやすい写真を選ぶというのは当然だ。その分かりやすい写真を選んだことが演出である、という非難になるのだろうか。

 では報道においては、演出はあってはならないのだろうか。限られたスペース、限られた尺の中で何かを表現する以上は、何らかの取捨選択が行われる。その過程で伝えたい内容を象徴する映像や写真を選択する以上、そこには演出的要素が発生するのは避けられない。何も象徴しない、一番ダメなカットを選ぶという選択肢はないわけだ。

 しかしそれは、事実とは違うことを報じたことになるのだろうか。例えばエキストラを使って人がたくさん集まってる様子を作って撮影したのなら、それはヤラセであり、報道ではない。しかしそこに自然に存在している人の流れをどのレンズで撮影したか、そうした方法論が非難されるというのは、何かおかしい気がする。

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