このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
カーネギーメロン大学、バージニア大学、ピッツバーグ大学、ワシントン大学による米研究チームが開発した「Detecting Depression and Predicting its Onset Using Longitudinal Symptoms Captured by Passive Sensing: A Machine Learning Approach With Robust Feature Selection」は、スマートフォンとフィットネストラッカーで取得したデータを用い、抑うつ状態の発症や悪化を検出/監視する機械学習ベースのシステムだ。大学生138人で実験を行い、学期後の抑うつ状態の有無を85.7%の精度で検出し、症状の変化を85.4%の精度で検出したという。
学生の抑うつ状態をモニタリングする試みはこれまでも行われてきたが、定期的な自己報告に頼っており主観的なものがほとんどだった。今回のアプローチは、スマートフォンやフィットネストラッカーに内蔵されたセンサーから得られた客観的データにより、学期中に抑うつ症状を発症した学生と、抑うつ状態が悪化した学生を特定する。
実験は、カーネギー高等教育機関分類のR1(Doctoral Universities: Highest Research Activity)の中から任意参加の学生138人で行われた。学生たちにはフィットネストラッカーとしてFitbit Flex 2を配布。参加者はスマートフォンからセンサーデータを追跡するiOS/Android向けのセンシングフレームワーク「AWARE」をダウンロードした。スマートフォンとFitbitを常に携帯/着用するよう求められた。
対象となった学生は、AWAREによって位置情報(GPS、Wi-Fiなど)、スマートフォンの使用状況(画面の状態がオン/オフ、ロック/ロック解除など)、キャンパスマップ(大学内の詳細な位置と滞在時間)、通話ログ(事前に頻繁に連絡を取る人の情報が含まれる)、Bluetoothアドレス(何人と会っているかなどを推定)の5つ、Fitbitで歩数(身体活動の調査)と睡眠(不眠症や過眠症などを検出)の2つが定期的に記録され、1学期(16週間)にわたって収集される。
これら7つのデータを基に深層学習を用いた分析モデル(ロジスティック回帰、LOOCV、AdaBoostなど含む)を設計した。
質問票の回答から抑うつ状態の程度を測るBDI-IIスコアを、測定の開始時と終了時の2回実施。そこから得られたうつのレベル測定結果と比較した。
結果は、学期後に抑うつ状態を85.7%の精度で検出、学生の抑うつ状態の重症度が変化したかどうかを85.4%の精度で検出、変化の度合いを82.9%の精度で検出した。また学期末の11週間前に81.3%の精度を示し、学期が始まって約5週間までに高い精度の検出率を得られることが分かった。これらの結果は、BDI-IIなどの自己評価表を頻繁に取得することなく抑うつ状態を予測できることを示したという。
将来的には、ソーシャルメディアの投稿から言語行動の分析、ストレスホルモンの唾液検査などの生理的要因、ゲノムシーケンシングを用いた遺伝的要因などを含めることで、より正確な事前予測モデルを構築したいとしている。
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