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» 2021年02月18日 07時00分 公開

「ワープロはいずれなくなるか?」への回答を今のわれわれは笑えるか あれから30年、コンピュータと文書の関係を考える(1/2 ページ)

西田宗千佳さんが考える、ペーパーパラダイムからの脱却。

[西田宗千佳,ITmedia]

 2021年に入ってからSNSで「『ワープロはいずれなくなるか?』という質問に30年前のメーカー各社はどう答えた?」という記事が話題になっていた。発端となったのは、ガジェットカルチャー誌の老舗であるDIMEが、同誌の平成元年(1989年)版に掲載した同名記事を引用して作ったWeb版の記事であるようだ。

 その記事に引用されていた、日本でワープロ専用機を作っていた各社のコメントは、今の基準で見ると古臭いものに見える。今やワープロ専用機など存在感はないが、「絶対になくならない」としているからだ。

photo 東芝「Rupo JW-R1」(IPSコンピュータ博物館より

 それを揶揄(やゆ)するのは簡単だが、話はそんなに単純ではない。30年前、今のデジタル機器での文書利用を正確に予測するのは難しかったし、ある程度予測できたとしても、メーカーとして単純に専用機を否定できるわけもない。

 むしろ重要なのは、この30年、「コンピュータと文書」の関係がどう変化し、どう変化しなかったかを見据えることだろう。「デジタルトランスフォーメーション」というキーワードが消費される今だが、その言葉の是非はともかく、本質の一つはコンピュータと文書の関係のモダン化を正面から捉え、仕事をしやすくしていくことにあるはずだ。

 そこで今回は、歴史を遡(さかのぼ)りつつ、「コンピュータと文書」の関係を考えてみよう。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年2月15日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから

ワープロ専用機とはどんな存在だったのか

 件の記事でも話題の中心だった「ワープロ専用機」とは、どんな存在だったと定義できるだろうか? ハードウェアとして見れば、ワープロ専用機もPCも、そしてスマートフォンも「コンピュータ」であることに違いはなく、特定の用途に向けてソフトとハードを最適化したもの、というだけだ。今の目線で見ると、操作感などの常識はかなり異なるが、それは当時メーカーが最適と思う方法がそれであったというだけ。当時のPC用ワープロソフトやエディタの操作感も、現在のものとはそこそこ違うので、「操作性の違い」を今の目で比較するのはあまり意味がない。

 また、世の中にある「コンピュータ」の中で、専用機がなくなったわけではない。ゲーム専用機が最初に思いつく例だが、業務用端末などまで視野を広げれば、専用機と汎用機はちゃんと住み分けられているともいえる。PCを使ってはいても、業務用アプリだけを使えるようにした形で与えられているなら、それは専用機といって差し支えない。本質は「専用機が汎用機に負けた」という話ではない。

 文書作成、というジャンルにおいて専用機がなくなっていった理由はなぜなのか、といえば、そこでは2つの流れがある。その過程で、専用機であることが単純に不利となり、汎用機であるPCに役割を奪われていった、といえる。

 1つ目の流れは「最終出力の変化」だ。

 ワープロ専用機には、特に個人市場向けの場合、ほぼ100%といっていいくらいプリンタが内蔵されていた。作成する文書はもちろんデータとして保存されるわけだが、データでの保存は自分での作業用であり、他人に渡すのは基本的に「印刷物」だった。アルファベット圏ではPC普及に先立ってタイプライターが広まっていたが、日本語タイプライターはそこまで利用が拡大しなかった。文書を美しく、素早く作るための機器としてワープロ専用機が生まれた。

 現在も「紙を媒介とする」ことはなくなっていないが、紙とデータの役割は変わっている。データのまま人に渡す、人からもらうことが増えるならば、プリンタと一体であることが前提となっていたワープロ専用機より、PCの方が素直に利用できる。

 2つ目は文書作成以外での文字利用、すなわち「コミュニケーション」の重要性の増加だ。ワープロ専用機は「文書作成」こそが利用の中心にあった。パソコン通信やインターネットが利用可能なワープロ専用機も発売されたが、付加機能として呼び出して使えるに過ぎなかった。その後、コミュニケーション機能を主軸とした専用機である「携帯電話」(フィーチャーフォン)が、ワープロ専用機と同じ構造でヒットすることになるので、何かの機能に特化した機器がダメ、ということではなかったのだろう。しかし、「仕事や趣味の中での文書作成」であったとしても、コミュニケーションの価値は高まり、付加機能ではなく「メイン」になっていった。

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