こうした状況を鑑みて、“Gang of Nine”と呼ばれる9社(AST Research、Compaq、セイコーエプソン、HP、NEC、Olivetti、Tandy、WYSE、Zenith)が共同で策定を行った拡張バスの規格がEISA(Extended Industry Standard Architecture)である(写真1)。
昨今ではちょっと考えにくいのだが、EISAでは協議会とかMSA(Multisource Agreement)的なものは一切作らず、あくまでもSpecificationをリリースしただけで、実装の検証とか相互接続性テストの開催、仕様の認証などは一切行っていない(というか、行うための主体が存在しなかった)。
80年代末というのは、まだそうした事柄が熟す以前の時期でもあり、まだ各社とも手探りで方策を検討していた時期だったから、これは仕方ないのかもしれない。
このEISAは32bitバス、8.33MHzの信号速度で、バスの帯域は33MB/secの共有バス形式というものだった。上でちょっと書いた、ATバスに16bit分のデータバスと8bit分のアドレスバスを追加し、32bitアドレス/データのバスとした格好だ。
バスの信号速度は8.33MHzという中途半端な数字になっているが、これはIntelの80386に合わせたものだ。33MHzの80386の場合、信号速度を4分周すると8.33MHzになる。同様に25MHzなら3分周で8.33MHzだ。16MHzなら2分周で8MHzとなりちょっと遅くなるが、これは許容範囲(というか、Specificationにはバスの速度は規定されておらず、実装としては最大8.33MHzでそれ以下での動作も許容されるというのが一般的な解釈だった)だった。
このEISAは特に一部のベンダー(主にCompaq)が投入したPCサーバ向けなどに威力を発揮すると期待された訳だが、業界的にはこのEISAのSpecificationによってISAバスがきちんと定義されたことが大きな特徴だった。
そもそもEISAの“E”は“Extended”(拡張)なわけだが、何に対して拡張したか、というその元になるものが“ISA”(業界標準アーキテクチャ)という訳だ。
EISAのSpecificationの中にはISAバスという名前でATバスのバスプロトコルや電気的特性、その他必要とされる全ての要素が盛り込まれることになり、EISAのSpecificationを参照することでISAバスを搭載したPC、あるいはISAバスの拡張カードを開発できるようになった。
ついでに言えばATバス、つまりIBM PC/ATのバスではバスの速度は6MHzないし8MHzであったが、ISAバスではこれが(EISAに合わせて)8.33MHzに引き上げられることになった。
このISAバスの動作周波数についてはちょっと面白い記憶がある。多分1990年か91年頃の話だと思うのだが、旧SGS Thomson(現在のSTMicroelectronics)がIBMのXGAというグラフィックスカードと互換のビデオチップを開発し、これをISAバスのカードとして試作したので評価してほしい、という話がどこからか編集部に舞い込み、筆者が試すことになった。
ところが何をやってもそのカードが動作しない。「おかしい」とかいう話になって先方の技術担当者といろいろ話をしていて分かったのは、チップが最高でも8MHzでしか動かないことだった。「え、ISAバスだから8.33MHzですよね?」「え、ISAバスって8MHzですよね?」なんてやりとりがあったくらい、ISAの仕様はいい加減なものとして認識されていたということだ(ちなみにバスの分周比を変更して6.25MHzに落としたら無事動作した)。
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