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Clubhouseで注目度が上がる「音声」を技術的に見る 説得力のある声を伝えるために知っておくべきこと(2/2 ページ)

» 2021年03月04日 07時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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 Clubhouseでは、音声を少ないデータ量で通すために、不要な周波数帯域をカットしているはずである。一方Clubhouseには「音楽モード」というものがあり、音楽の伝送に向いたモードに自動で切り替わるようだ。これはおそらく、通す周波数特性が広い、当然ビットレートも高いモードであるはずだ。より高音質でやりとりしたい人は音楽モードに切り替えるべくあの手この手を試しているようだが、周波数レンジが広ければ音声が聞き取りやすくなるとは一概に言えない。

photo Clubhouseの音楽モード

 この辺りは、これまでただ聴くだけだった人が急に作り手になった際に陥りやすい勘違いだ。ただ聴くだけなら、作り手が供給するコンテンツをなるべくそのままの状態で聞く方法として、Hi-Fiを求めるのは正しい。

 だがコンテンツの作り手側としては、むしろ「音が通りやすいようにきれいに潰(つぶ)す」テクニックが重要になる。

「説得力がある声」とは何か

 周波数特性の問題もあるが、手つかずのHi-Fi音声がコンテンツとして使いづらい最大の理由は、「Hi-Fiな肉声は意外と細い」ことにある。声楽や声優・アナウンサーとしてのトレーニングを積んでいる人の発音とは違い、一般の人のしゃべりはマイクを通して聴くと、音痩せする。そもそも声量が違うのだ。

 音が細いと、言葉に説得力がなくなる。また聞き取りづらくなり、一度聴いただけでスッと頭に入らない。そうなると、話の趣旨が伝わらなくなる。

 解決方法は、「集音」と「整音」にある。まず集音は、なるべくオンマイクで行うことだ。オンマイクとは、マイクを口に近づけることである。ただカラオケのようにべったり口に近づけるのではなく、10〜15cmほど離したほうがよい。これでまず音圧を稼ぐとともに、フォルマント周波数をしっかり捉える。

 次に、コンプレッサーをかけて音量を平坦化してやる。アマチュアのしゃべりは発声ごとに音量がバラバラで、オンマイクになるとその傾向が顕著になる。大きな音は潰してピークを抑え、小さな音は持ち上げて聞き取りやすくする必要があるわけだ。

 周波数を区切り、コンプレッサーで音を潰すと、AMラジオのような音に近づく。これではいい音声とは言えない、と思われるかもしれないが、聞き取りやすさと言葉の説得力が増すので、しゃべる内容が重要なコンテンツはこの方法論が効く。Hi-Fiの逆、つまり周波数帯域を狭めてダイナミックレンジを狭めることで、音声は説得力が出る。つまり圧の強い声になる。

 大正解はインタビューマイクとコンプレッサー付きのミキサーを使ってやるという方法だが、宅録をやる人はマイクプリアンプを使ってコンプレッサー効果を狙う人も多いようだ。一方ClubhouseではiPhoneへつなげられるかがポイントになるだろうが、iRig PreやiRig Pre 2あたりを使えば、ミキサーやマイクプリも接続できるだろう。

 最近はこうしたスタジオワークでしかやらないようなテクニックを一般の人も使いたいようである。それだけ簡単にいろんなことができるようになったし、プロに近いクオリティーを求めるようになってきたということであろう。多くの人に作り手のマインドを理解していただければ幸いだ。

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