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「ピピン」とは何だったのか バンダイとAppleの黒歴史として失笑するだけでいいのか?(1/4 ページ)

» 2021年03月31日 12時25分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 NHK「神田伯山のこれがわが社の黒歴史」第1回を飾ったことで注目を浴びた、バンダイのコンソール「ピピンアットマーク」(Pippin Atmark、1996年発売)。しかし、この番組だけではその本来の価値を伝えきれない。そこで、当時Mac雑誌でピピン開発ドキュメンタリーを執筆していた納富廉邦さんに、Macintoshをベースにした不運なマルチメディアデバイスの意義をまとめてもらった。

photo 編集担当者の家で今も動いているピピンアットマーク

 

 ピピンという言葉を口にすると、どこからか失笑が聴こえてくる、といった扱いになっているような気がする。失敗作の代名詞というか、世界で最も売れなかったゲーム機とか言われているし。

photo 3月19日放送のNHK番組「神田伯山のこれがわが社の黒歴史」で主役となったのがピピン

 売れなかったのは事実だけれど、世界一売れなかったゲーム機だったかどうか、それは分からない。ワンダースワンとか3DOとかネオジオとかCDTVとか、いや、いいけど、赤字額が大きかったゲーム機なんていくらでもあるだろう。そもそもピピンアットマークはゲーム機だったのか、という問題もある。それこそ、パナソニックの「3DO REAL」のように、家電として流通させたからアレはゲーム機ではないという例だってあるのだ。

 私は、1995年当時、某Mac雑誌に、ピピン発売前からバンダイに通って、開発ドキュメンタリーを連載していた。その時にお話をうかがった、Pippinプロジェクトのチーフプロデューサー、バンダイ(現在のバンダイナムコゲームス)の鵜之澤伸氏の“My First Mac”という言葉が、ピピンというプロジェクトの本質を示していると思う。

パソコンは、小中学生がポーンと買って、勝手につないでファミリーで使える物とは違うと思うんです。Macintoshは楽な方だし、僕も好きなんですけれど、やはり、ハードディスクを持ってて、システムフォルダがあって、ファイルマネジメントがあると、どうしてもどこかに難しさが残っちゃう。少なくとも、動かなくなったら電源切っちゃえばいいってものじゃなくて、ちゃんとシャットダウンしなくちゃいけなかったり、新しいソフトを買って来ると、まずインストールして、ものによってはサウンドマネジャーを入れ変えたりとかがありますよね。これはやっぱり家電なり、コンシューマーのゲーム機とはちょっと違うだろうという発想がうちの社長にあったんですね

 当時、鵜之澤伸氏がこう話してくれたように、発想は、“コンシューマーのゲーム機のように使えるMacintosh”だったのだ。そして、ジョン・スカリーが辞めた直後のAppleは、鵜之澤氏による、パワーレンジャーとウルトラマンとゴジラがAppleのモニターを持っている絵を使ったプレゼンテーションと、「うちの会社はこういう会社だ。エンターテインメントを、家庭に届けるのはうちだよ。組まないか?」という話に乗ったのだ。

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