Fire Phoneも含め、ブラウザに特化したモバイル端末は市場に受け入れられずに終わってしまった。しかし、ブラウザ特化というコンセプトそのものが否定されたわけではない。それはFirefox OSと同様、ブラウザに特化したOS「Chrome OS」を搭載した「Chromebook」が、2021年現在大成功を収めているからだ。
Firefox OSとChromebookを比べると、ChromebookはFirefox OSの課題をほぼクリアしている。スマートフォンと異なりノートPCスタイルの端末だったChromebookは、当然ながらスマートフォン向け表示に対応する必要はなく、PC表示がそのまま利用できればいいため、Chromebook向けにわざわざ対応する必要はほとんどない。
同様にノートPC型の端末としたことで、利用スタイルも「移動しながら使う」のではなく「オフィスや自宅など作業場で使う」のがメインとなり、インターネット環境が安定した場所で使うのが前提のため、結果として回線がつながらないという心配もいらなくなった。
当初はブラウザのみだったChromebookも、その後Androidアプリが利用できるアップデートが行われた。とはいえ、Androidアプリがないブラウザのみの端末だったとしてもChromebookの魅力は損なわれない。PCとほぼ同等のブラウジング端末を低価格に、そして高速に起動できる環境は、ブラウザ特化の端末にもニーズがあったことを示している。
一方、それではモバイル向けのブラウザ特化端末に未来はあるのか、という点に戻るなら、2014年当時よりは可能性があるのではないか、というのが筆者の持論だ。当時に比べればブラウザの性能が飛躍的に高まり、多くのサービスがブラウザのみで動作するようになった。GoogleのPWA(Progressive Web Apps)のように、ブラウザがネイティブアプリのように振る舞う環境も整いつつある。
スマホ向け表示ができなかったという課題も、技術的な問題というより端末の普及度の問題だ。あまりに少数派だったFirefox OSでは対応するメリットも少なかったかもしれないが、ブラウザ特化端末が一定のシェアを獲得さえすれば、スマホ向け表示は難しい話ではない。
通信環境についても、最近では高速で大容量の5Gが普及しつつある。ブラウザの性能向上に加えて高速な5G回線が整備されることで、移動中の利用でも利便性を損なわずに運用できるようになれば、Firefox OSのようなブラウザ特化型のモバイル端末にも可能性があるのではないだろうか。
そしてFirefox OSのようなブラウザ特化型端末において、最も重要なのが開発の自由度だ。ブラウザ特化による機能制限や低価格ばかりに注目が集まりがちなFirefox OSだったが、本来注目すべきは、Firefox OSがオープンソースで作られたモバイルOSであり、アプリもHTML/CSS、JavaScriptというWebベースの技術で開発できるという点にある。
スマートフォンのアプリ開発は相応の知識や経験が必要だが、これがWebベースの技術で可能になるなら、開発者の規模はぐっと大きくなる。本当に使えるアプリになるかはさておき、HTML/CSS、JavaSpciptでのアプリ開発なら、プログラミングスクールやWebのプログラミング学習サイトで身につけた知識でも開発することが可能だ。
最近ではノーコードという、ソースコードを書くことなくアプリやWebサービスを開発できる手法も話題を集めている。こうした手法やブラウザベースでのアプリ開発が普及し、開発のハードルが下がることで、玉石混淆となる可能性もあるものの、今までにはなかったアイデアが生まれることもありそうだ。
本格普及にはまだまだ課題の多いブラウザ特化型端末だが、5G時代の今だからこそ実現しうる新たな可能性に期待したい。
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