ITジャーナリストの西田宗千佳さんに、Appleやソニーが本腰を入れている新しいオーディオフォーマットについて解説してもらった。
Appleは同社の定額制音楽配信サービス「Apple Music」に、6月から「空間オーディオ」楽曲を追加すると発表した。そのための追加料金はない。
同社だけでなく、多くの音楽関連企業が、「次の時代の音楽提供形態が空間オーディオにある」と考えており、コンテンツ提供を開始している。ソニーは4月より、同社が海外で展開済みだった空間オーディオ技術「360 Reality Audio」(360RA)を、日本向けにもパートナーとともに展開し始めている。
では、空間オーディオとはどういう存在で、各社が提供するものにはどんな違いがあり得るのだろうか? 現状分かっている情報をもとに解説してみたい。
まずシンプルな話として、「空間オーディオ」とは何なのだろう? 理解するためにはちょっと歴史の話からやっていきたい。
従来の一般的なオーディオは、2つのスピーカーやヘッドフォンから音が流れることを前提に、「右と左のチャンネル」に分けて音を伝送していた。これがいわゆる「ステレオ」だ。人間には左右2つの耳があるので、「右からの音」「左からの音」を分けて鳴らす。良いものを作るにはノウハウが必要だが、一方で技術的にはシンプルなので、機材も伝送も全てアナログだった時代から、長く使われている。
一方映画館などでは、より迫力のある空間を作るために、複数のスピーカーを配置し、それぞれから音を出すことで、表現の密度をあげるようになっていった。スピーカー配置の相対位置がある程度定められていて、それに合わせて各スピーカーからの音を「チャンネル」として扱った。ステレオなら「2チャンネル」であり、前後左右に4つなら「4チャンネル」。前後左右に4つ、中央に1つ、さらに低音専用のサブを用意して「5.1チャンネル」。
この辺から「あ、聞いたことある」と思った人も多いだろう。
1980年代以降、映画館のために作られた音響を家庭で再現するため、各チャンネルをまとめて提供する技術として出てきた。俗に「サラウンド」というとこの種の技術を指す。
初期にはアナログ方式もあったが、普及が加速したのはDVDの世代になり、完全なデジタル技術となってから。「Dolby Digital」や「DTS」がそれだ。その後上位規格として「7.1チャンネル」なども出てきたが、基本的な考え方は同じといっていい。
これが、「チャンネルベース」と呼ばれる方式である。
その性質上、映画ソフトからの展開となったが、ライブなど音楽ソフトとの相性も当然良いので、「Dolby Digital対応のライブ映像ソフト」も多数出た。スピーカーを必要な数だけ置いて再生するのが基本だが、それでは準備も大変なので、ソフトによって「ヘッドフォンで同じものを再現する」「2つのスピーカーだけで同じものを再現する」技術も生まれていく。これが「疑似サラウンド」「バーチャルサラウンド」と呼ばれるもの。この技術の登場により、サラウンド音源を楽しむハードルは一気に下がっていった。
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