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Apple Musicがサポートする「空間オーディオ」とは何か チャンネルベースとオブジェクトベース、Dolby Atomosと360RA(2/4 ページ)

» 2021年05月24日 14時35分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

映画やゲームから広がった「オブジェクトベース」オーディオ

 さて、時代はそろそろ現代になってくる。

 チャンネルベースのサラウンドよりももっと臨場感・没入感を生み出すものとして登場するのが「オブジェクトベース」という考え方である。現在「空間オーディオ」「3Dオーディオ」というと、このオブジェクトベースのものを指すことが多い。

 現実空間を思い出していただきたい。

 音は「音源がある場所」から発せられ、それが自分のいる場所まで届くことによって聞こえる。位置の前後左右上下はもちろん、距離によっても音の聞こえ方は変わる。そのため、仮想的な空間の中に音源を配置し、「自分が中央にいる」と考えて、どう音が聞こえるかを計算によって再現していくのが「オブジェクトベース・オーディオ」である。マスタリングの段階でチャンネル数に合わせて音の聞こえ方を決めてしまうのでなく、演算の結果をさらに再生する機器の特性に合わせて加工し、耳に届ける。

 チャンネルベースに対する利点は、上下の立体感が再現されること、そして音の動きや位置などの解像感が高まることだ。

 オブジェクトベースでの音再生、という考え方は、特にCGと相性がいい。CGは「オブジェクトにどう光が当たるかを計算し、見え方を演算で生み出す」もの。光を音に置き換えれば、発想が同じであることが分かる。

 そのためまずはゲームでの利用が先行した。スタジオで出来上がった音を流すのでなく、プレイヤーの動きに応じて音が変わること、音の発する位置を把握することがゲームをプレイする上でリアルさにつながり、プレイヤーに新しい楽しみを与えられることなどが理由だ。

 現在は多くのゲームで一般的に使われているが、特に「PlayStation 5」は、オブジェクトベースの音を処理するための高性能専用プロセッサ「Tempest 3D Audio」を搭載し、差別化要因として活用している。

photo Tempest 3D Audio

 映像作品ではやはり映画館からの導入となった。オブジェクトベース・オーディオの規格である「Dolby Atmos」は映画館向けにまず提供され、最初に利用したのは、2012年に公開されたピクサーのCG映画「メリダとおそろしの森」である。

 その後、Dolby Atmosは多くの映画で使われることとなり、Ultra HD Blu-rayや映像配信、ゲーム機、スマートフォンなど幅広く採用された。Dolbyが映画館や本格的なオーディオシステムだけでなく、ヘッドフォンや2チャンネル用ステレオスピーカー向けの再生技術を開発、各社にライセンス提供を進めてきた結果といえる。

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