「ピッコマ」で配信されている「ゴッド オブ ブラックフィールド」は、韓国マンガから翻訳された縦スクロール作品だが、最初から電子書籍上で展開されていることもあり、全編フルカラー作品となっている。絵としての構図を確定するという意味でのコマ割りはあるが、セリフの吹き出しが常時コマから飛び出しており、コマ割り感の希薄なレイアウトとなっている。
こうした区切りのない縦構造をストーリーの中に取り込んだのが、「少年ジャンプ+」で配信中の「タテの国」である。文字通り、縦方向に長い塔のような国に住む主人公が、ヒロインを追って塔の中央にある穴を無限に落ち続けるという、奇抜なコンセプトだ。
コマ割りはあるが、黒で塗りつぶした背景に縦に長いカットを挿入するなど、表現手法としても面白い。後半以降はタテの国の外に出てしまうので独特の構図は少なくなるが、制限なくずっと縦長というフォーマットをうまく使った話運びは、後の作品に大きな影響を与えるだろう。
絵や写真、動画でも何でもそうだが、ある程度のエリアを切り取って描くことで、それは「構図」となる。そもそもキャンバスは物理物だから無限ではないという前提はあるにしろ、無限の可能性の中で切り取られた構図には、「そう切り取ったことの意味」が発生している。
ところがスマートフォンの特性という条件によって、縦方向だけ無限というキャンバスが誕生した。もちろん描く人間の能力が有限である以上、無限を描くことはできないが、マンガは縦方向だけ制限がない、ある種のタイムライン的表現へと突入しつつあるのではないだろうか。
これはもはや、ページをめくるのは縦がいいか横がいいかという議論ではなくなっている。そもそもページという概念がない世界の入り口に、われわれは立った、ということなのだ。
その意味では、マンガは非常に映像作品的に、さらに言えば映画フィルムのようなものになりつつあるのではないだろうか。
マンガ発祥の国である日本で、全ての漫画が縦に置き換わってしまうことないだろうが、4コマとは違う「縦マンガ」という表現には一定のジャンル感があり、漫画家の皆さんは「いつでも縦でやれる」準備が必要になってくるだろう。
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