日本アイ・ビー・エムは6月7日、東京大学浅野キャンパス(東京都文京区)に量子コンピュータ技術のハードウェアに関する研究や開発を行うテストセンターを開設したと発表した。日本アイ・ビー・エムと東大は、テストセンターの開設で、日本国内での量子コンピューティングに関する研究開発の加速や、人材育成を狙う。
センター内には量子プログラムなどを実行可能な研究用の量子コンピュータ(テストベッド)も設置。IBMが米国外にテストベッドを設置するのは初めてだという。これまで、量子プログラムの実行には米国内のマシンを使う必要があったため、データの送受信や実行の順番待ちなどに時間がかかるのが課題だった。同社は日本国内に設置することで「レイテンシ(反応時間)が短くなるメリットがある」としている。
テストセンターの開設に伴い、東京大は近く、ハードウェア開発のチームを発足させる方針で、センター内の施設は、2者が2019年に発足したパートナーシップ「Japan-IBM Quantum Partnership」の参加企業が優先的に利用できるという。
同社が東京大に設置した量子コンピュータは「量子ゲート」と呼ばれる方式。量子ゲート型は「汎用型」とも呼ばれ、幅広い用途への活用が期待されている反面、量子ビット数や誤り訂正技術の向上などに課題があることから、実用化には10年以上必要とされている。
一方、カナダD-Wave SystemsやNECなどが開発中のマシンは、数ある組み合わせの中から最適なものを選ぶ「組合せ最適化問題」の計算に特化した「量子アニーリング」という方式。マシンの活用ではD-Wave Systemsの実機がゲート型に先んじたことや、量子アニーリングの理論を東京工業大学の西森秀稔教授(当時)らが提唱したことから、日本国内ではアニーリング型の産業応用も盛んに議論されている。
東京大は20年7月、産官学連携で「量子イノベーションイニシアティブ協議会」(QII協議会)を設立。同社は開発拠点の設置で、日本国内でのゲート型の開発を促進したい考え。当初は20年中に開設する予定だったが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行で、ハードウェアの調達やエンジニアの確保が難航し、プロジェクトの進捗に遅延が生じていた。
同社は今後、神奈川県川崎市内にも商用向けの量子ゲート型コンピューティングシステムを設置する予定。
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