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ワクチン予約サイトのアクセス集中、特効薬は“仮想待合室”の設置にあり(2/2 ページ)

» 2021年06月21日 12時00分 公開
[中西一博ITmedia]
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エッジコンピューティングが先着予約のアクセス集中を解消

 では、多くの自治体で採用している先着予約方式のまま、予約開始時のサイトへの正規利用者のアクセス集中を緩和する仕組みは作れないだろうか?

 これを実現するのが「仮想待合室」(Virtual Waiting Room)だ。Webサイトへの集中するアクセスをいったんネット上に設けた“待合室”で受け止め、バックエンドの受け付けシステムが同時に処理可能なセッション数のみを、制御のうえ受け付けへ中継し、予約処理を確実にさばいていく。

 ただ、仮想待合室も1台で処理できる数には限界がある。これを解決するのが、CDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)のエッジサーバ上で独自のロジック(プログラム)を駆動できるエッジコンピューティング技術だ。

 世界中に分散して配置されたエッジサーバ上の仮想待合室で、利用者からのアクセスを受け止める。さらに、バックエンドのサーバに負担をかけることなく、受け付け待ちの画面をエッジサーバから利用者のブラウザに配信する。

 アクセスが集中すると、エッジサーバの負荷に応じて処理用のサーバも自動的に増える。混み合ってくると待合スペースが自動で増える、と考えれば分かりやすいだろう。

エッジサーバで一度アクセスを受け止め、受け付け用サーバがさばけるだけのトラフィックを順次送る

仮想待合室の実装は「1行書き換えるだけ」

 仮想待合室で待機している利用者を受付に案内する具体的なサービスとしては、例えばアカマイの場合は「Vaccine Edge」というソリューションを提供している。このソリューションではFIFO(First In First Out:待ち合わせ行列に並んだ順番で案内)方式と、いま待合室で待っている人の中からランダムで抽選して案内していく方式を用意している。

 「あと何人待っています」とか「予想待ち合わせ時間は20分です」といったインタラクティブな待合室画面の表示は、世界的なスポーツイベントのチケット販売や、超人気商品の先着販売などで豊富な実績のあるデンマーク・Queue-itのロジックをエッジサーバ上で動かすことで実現している。一方、ランダム抽選方式は、シンプルに「しばらくこの画面のままお待ちください、順次予約システムへの接続を行っています」という画面から、空いた席数分を抽選して、当選者を受け付け画面に案内する。実際には、どちらの方式でも大差ない待ち時間で案内されることになるだろう。国内での稼働実績では、最繁時でも最大30分程度の待ち時間で案内できていたようだ。

 「エッジコンピューティング」と書くと最先端技術で思わず身構えてしまいそうだが、既存のワクチン予約サイトへのCDNベースの仮想待合室の追加は思いのほか簡単だ。予約システムのWebサーバを示すDNSレコード(CNAME)を1行書き替えるだけなので、サイト側では数分の切り替え作業で、いま起きている問題を解消できる。

 また、予約受け付けサーバに送り出すトラフィック量を調整する指標として、アクセス(接続/受付待ち)数の変化や、Webブラウザ上での体感速度の悪化などをリアルタイムで可視化する機能なども、要件にあわせて追加している。もちろん、WAF(Webアプリケーションファイアウォール)をエッジサーバで動作させることで、海外やTor(トーア)などからのリスクの高いアクセスをブロックできる。DDoSやWebアプリケーション攻撃から、システムと登録された個人情報を守ることも可能だ。

 こうした仮想待合室を備えたアクセス集中緩和の仕組みは、いくつかの主要なCDNベンダーがすでに提案している。接種予約サイトを構築したベンダーとも相談し、予約開始時に想定される申込者数と予約サイトの同時処理能力などから、最適な待合室の要件を詰めるのがいいだろう。

日本は世界から遅れているか?

 ワクチン接種予約のアクセス負荷対策を取り上げて、IT技術は日本だけが世界から取り残されている、とニュースや記事で論説されることがあるが、本当にそうだろうか?

 筆者はそうは思わない。米国をはじめ世界中の自治体でも、ワクチン接種の開始に合わせてほぼ同じ問題が起きていた。アカマイでも、それらの課題を自治体やシステムベンダーと一緒に走りながら解決していく中で、ワクチン予約サイトの実情や構成に合わせたベストプラクティスを積み上げている。

 解決策は用意できた。ただその解決策が、必要としている人たちにまだ広く知られていなかっただけにすぎない。

 これからいよいよ、一般の接種予約が始まる。東京都など一部の都市は年内のワクチン接種完了を目指すとしている。2度のワクチン接種が終わっても、1年以内にブースター(追加免疫)のワクチン接種が必要になるという話もあり、医療従事者の皆さんだけでなく、ワクチン接種予約サイトを運営する人々の闘いも長いものになりそうだ。わが国での本当の勝負はむしろこれからではないだろうか。

著者:中西一博

コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)サービスを基盤に、各種のクラウド型セキュリティサービスを手掛けるアカマイ・テクノロジーズでWebセキュリティの動向を追う。

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