基地局が発する5G電波をAR技術で可視化。基地局の設置場所を選ぶときの参考に──こんな装置を、無線通信技術などを手掛けるパナソニック システムネットワークス開発研究所(仙台市)が開発している。
エレクトロニクスなどを手掛ける事業者が集う技術展示会「TECHNO-FRONTIER 2021」(東京ビッグサイト、6月23〜25日)では、その試作品を展示中だ。装置の仕組みや今後の展開を吉田宏太郎部長(技術センター 技術マーケティング部)に聞いた。
アンテナで受信した強度や位相を基にAR映像を生成し、装置に取り付けたタブレット端末で撮影した映像にリアルタイムで重ね合わせる仕組み。受信する電波は、基地局が発した5Gの28GHz帯。
AR映像はヒートマップ形式で、電波が強い部分は赤色に、弱い部分は緑や青色で表示する。カメラの向きを変えれば、その場の電波の強度などに合わせて、AR映像の形や色合いも変化する。ARを重ねた映像を録画できる機能も搭載している。
電波が来る方向を把握するため、装置には複数個のパッチ型アンテナをまとめた「パッチアレイアンテナ」を組み込んでいる。それぞれのアンテナが受け取る電波の位相を調整することで、どこから強い電波が来ているのかを確認できるという。
装置の重さは2kgほど。試作品ではパナソニック製のタブレットを取り付け、映像もその画面に映しているが、カメラがついていれば他のタブレットも装着できるという。
5G電波が届く範囲を確認する方法としては、専用の機器を使い、アンテナを立てて強度などを計測する手法がある。こういったやり方でも基地局を設置する場所を検討できるはずだが、なぜ電波を可視化する技術を開発したのか。
「28GHz帯の電波は直線的に進むため、障害物があるとすぐ届かなくなる。これまでの手法では電波が届かない場所が分かっても、具体的に何が障害物になっているのかは分からなかった。しかし今回のシステムであれば、どんな物体が電波を届きにくくしているのか分かりやすくなる」(吉田さん)
パナソニック システムネットワークス開発研究所では、電波の届く場所を広げるため、28GHz帯の電波をはね返す反射板も開発中という。今回の装置を使うことで、より効率的に反射板を置く場所を探すことも可能になるとしている。
吉田部長によれば、TECHNO-FRONTIER 2021で展示した試作品と同じものをすでにいくつかの通信事業者にも渡しており、実際に5G基地局を設置するときに使ってもらうことで、実用性を検証しているという。
今後は得られた知見などを基に、装置の小型軽量化や省電力化を進める。ただし外部からの要望を受けて開発した技術のため、基本的に販売はせず、同社が手掛ける他の無線技術の販促などに役立てる方針だ。ただし、需要があれば数個単位での生産は検討するとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR