6月15日の記者会見で、河野太郎行政・規制改革担当相は、各省庁に対してFAXを全廃する方向に舵を切った。FAXは通信機器といいながらも、「紙」で受け渡す。こうした物理メディアの受け渡しがあると、テレワークの阻害要因になるという考え方だ。
ところが7月7日に北海道新聞が報じたところによれば、各省庁から400件程度の反論が寄せられ、事実上全廃は断念したとみられる。
民事裁判手続きや警察など機密性の高い情報を扱う省庁では、メールに切り替えると「セキュリティを確保する新システムが必要」との理由からだそうだ。
確かにメールがセキュアかというと、微妙な問題ではある。現状FAXでやりとりしているということは、元となる「紙」があるということだろう。それをメールで送るとなると、スキャンしてファイル化し、添付するか、あるいは特定のサーバに置いてダウンロードしてもらうということになる。
添付ファイルやリンクを送ってあとでパスワードを送るような「お作法」は、省庁においても2020年11月に廃止の方針を打ち出している。
今になって「セキュリティを確保する新システムが必要」などと言い出すということは、2020年のお作法全廃の時点で、じゃあ代わりにこれからどうするかの指針がないままに全廃だけした、ということであろう。
確かにパスワード後送はセキュリティ的に意味がないが、ちゃんと気を付けてますよということをアピールする一種のおまじないではあった。おまじないしてるから送ってもよい、で送ってた部分は多分にあると思うのだ。
じゃあ逆にFAXがそれほどセキュアなのか、という問題もまたある。全員のデスクにFAX機があるわけでもなく、多くは部署ごと、あるいはフロアごとに2台とか3台共有している程度で、送信文書の取り忘れやら、届いたFAXの放置やら、無関係の部署の人間やFAX配布係の外部委託者が内容見まくりで、セキュリティ的には結構ズルズルだったはずだ。
仕組み的にはズルズルでもやれていたのは、運用で何とかしてきた実績があったからである。「これまで漏れてないから大丈夫」なのであり、「下手に触るから穴ができる」というわけだ。
6月のFAX全廃は、代案を検討する時間的余裕がなかったという指摘もあるが、実はFAX全廃は4月13日の記者会見の時点ですでに方針を明らかにしており、時間はあったはずだ。デジタル庁まで発足させておいて、行政のお手本たる国が「大事な要件はまだまだFAX」は、どう考えても時代遅れであろう。
河野大臣のFAX全廃の目的は、公務員のテレワークをやりやすくするためであった。一方民間企業でテレワークを実施できているところは、すでにオフィスを縮小して全員分の席がないという話も聞く。ワクチン接種が行き渡って、もう以前ほど神経質にならなくてもいいね、という状況になっても、もう全員フル出社には戻らない、というか戻れないというのが現実だろう。
テレワークが標準となると、企業が採用する人材にも変化が出てくる。出社が原則でないなら、東京の企業が地方大学出身の優秀な人材を現地採用できる可能性もある。特に理系・工学系の人材は東京でも不足しており、採用の間口を全国に広げたい希望はもともとあったのだ。
逆に地方有力企業が、首都圏の大学を出た優秀な人材をUターンやIターンなしで採用する可能性は……低いだろう。なぜならば地方企業はそもそもテレワーク実施率が低いのに加え、地元在住者の積極的な雇用によって地域貢献したいという方向だからだ。
ただ新規採用の人材については、今後「テレワーク実施に不都合がない知識・技量があること」が条件になっていくことは間違いない。
メールやZoomによるコミュニケーションが問題なく行える、グループウェアの利用も自分でマニュアルを読んでどんどん使っていける、情報セキュリティに関しての知識があり防衛策が実践できる、ぐらいのことは求められるだろう。
業務上の研修はどのみち必須にしても、そうした「働き方」の研修までやっていては、研修コストも時間も倍に跳ね上がるからである。
こうした傾向は、学生側にとっては明暗が分かれるところである。例えばAO入試のように、ユニークさで一点突破してきたような学生は、採用されにくくなる。「面白いとは思うけど……基本がなあ」みたいな話になりがちだ。
これまでそういう人材は、マンツーマンで人にくっつけてOJTでやっていれば、どうにかなった。だがマンツーマンがあり得ない状況では、基本ができていて自分でどんどん調べて勝手に成長してくれて、勘違いしそうならちょっと叩いて軌道修正が効く素直な子の方がいいに決まっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR