小寺信良のIT大作戦
小規模企業向けクラウドPCは浸透するか Webブラウザから使えるマシン「Windows 365」登場で考えた(1/2 ページ)
米Microsoftが、同社のパートナー向けイベント「Inspire 2021」で発表した、デスクトップ仮想化を用いてクラウド上のWindows環境を利用できる新サービス「Windows 365 Cloud PC」。料金はまだ不明だが、8月2日から使えるようになるという。サービス開始時はWindows 10だが、Windows 11リリース後はどちらか選べるようになるようだ。
ソフトウェア開発をはじめとするIT系企業の間では、クラウドベースのPC環境は珍しいものではない。現にMicrosoftも、Azure上で動く「Azure Virtual Desktop」を展開している。ただしこれは100から1000ライセンス単位のエンタープライズ向けサービスで、小規模なビジネスを対象にしたものではない。
これまで一般ユーザーに関係するクラウドサービスとしては、OfficeやTeamsなどがオンラインで使えるMicrosoft 365があった。Windows 365はそれと同じくらいの気軽さで、Windows環境そのものがクラウドサービス上で使えるサービスを目指しているのだろう。
映像業界とクラウドサービス
筆者がキャリアを積んできた映像業界では、クラウドの利用率が次第に高まっている。もともとCGの世界では、レンダリングを高速化するためにクラウドレンダリングサービスを利用するケースは多かった。これはCGソフトそのものをクラウド上で動かすわけではなく、レンダリングエンジンだけをクラウド上に複数台配置し、ローカルのCGソフトから必要なデータとレンダリングコマンドを送信して分散レンダリングさせ、完了した画像データをローカルに送り返すというサービスである。
こうしたレンダリング用サーバは、一般のサーバマシンよりもGPUが強化されたハードウェアを使用している。ある意味「GPUの時間貸し」ともいえるサービスである。こうしたGPUのハードウェアリソースは、これまでデータマイニング事業者との奪い合いになっていたわけだが、中国でマイニングが禁止されたことにより、多くのGPUが廃棄された。
マイニング業者は国外に移るだけという予測もあるところだが、少なくとも中国の安いリソース(電気代・土地代・人件費)を使っての荒稼ぎは一段落したとみられる。今後のサーバビジネスは、クラウドレンダリングサービスに限らず、GPUパワーが潤沢に使えるようになっていくかもしれない。
テレビ番組制作の分野でも、米国に比べるとまだまだだが、クラウドサービスの利用が始まっている。日本のテレビ業界がクラウドサービスの利用に消極的だったのは、アップロードした素材や完成コンテンツが盗まれるのではないか、という懸念を払拭できなかったからだ。
なぜテレビだけがこうもクラウドにアレルギー反応があったかといえば、コンテンツが動画共有サービスに流されて財産的価値が低下した(実際に低下したかどうかは別として)というトラウマがあり、既得権益ビジネスがうまくいかなくなったのはネットのせいだと思いたい人たちが運営を握ってきたからである。
だがテレビの世界も次第に世代交代が起こり、海外事例の見様見まねで、映像の受け渡しやAIによる自動処理にクラウドサービスを利用するようになってきている。
プロ向けビデオ編集ソフトもすでにクラウド上で動いている。米Grass Valleyの「EDIUS Cloud」は、Amazon WorkSpacesまたはAmazon EC2上で編集ソフト自体が走っており、ローカル側はアクセス用ソフトが走れば何でもよい。素材はAmazon S3上に置いてあるものが引っ張ってこれる。
このメリットは、大きなプロジェクトで急に大量の編集チームが必要になったような場合に、強力なローカルマシン100台とか用意しなくてもよくなるという、スケーラビリティにある。例えば東京オリンピックなどは、世界中の編集チームを合わせると数千単位で編成されているところかと思うが、そういった大規模ブロジェクトにメリットがあるといわれていた。ただ実際に今回のオリンピックで使われるのかは、寡聞にして存じ上げない。
ライブ中継も、すでにクラウド上で完結するシステムが中国で稼働している。複数台のカメラにIP伝送モジュールをくっつけ、クラウドに向かってストリームを流すと、クラウド上にあるソフトウェアスイッチャーで映像切替ができる。筆者が初めてそのシステムを見たのは2017年だったが、回線速度の関係からVGA程度の画質ながら、カメラ以外のハードウェアはPCしかない放送業務は、衝撃的だった。
ライブストリームがクラウド上に集まるようになると、クラウド上で稼働するバーチャルスイッチャーには可能性がある。このご時世、大勢のスタッフが狭い中継車にすし詰めでプロダクション作業をするというのはありえない話で、どうやってリモートで制作するかが大きな課題になっている。テレビ中継業務も、クラウドサービスを使わないと成り立たなくなるのはもはや時間の問題であり、その点ではコストを度外視しても取り組まなければならない課題でもある。
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小寺信良のIT大作戦
ベテランのテクノロジーライターである小寺信良さんがIT分野全般にわたって考察する。
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