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テクノロジーで着実に進む「MaaS」変革 私たちの“移動”を変える3つのアプローチ(3/3 ページ)

» 2021年07月30日 21時00分 公開
[武者良太ITmedia]
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郊外型MaaS──日常の買い物でも活用できる電動カートに注目

 郊外型MaaSは、筆者の考えでは2つのケースに分かれる。1つは事業者が都市計画の一環として進めるもの、もう1つは自治体レベルで推進するものだ。

 前者は東急グループの例が参考になる。東急グループは過去にたまプラーザ駅の半径2kmをカバーエリアとした郊外型MaaSの実証実験を行った。たまプラーザ駅から渋谷への快適な移動手段としてハイグレード通勤バスを用意。また駅周辺エリアの移動手段として、バス停がなく乗車・降車地点を自由にリクエストできるオンデマンドバスを走らせ、2人乗りのパーソナルモビリティやカーシェアのサービスも提供した。

 後者は茨城県土浦市が推進していた「つちうらMaaS」の例を見ていこう。2021年2〜3月にジョルダンのモバイルアプリ「乗換案内」と連携し、市内バスの1日乗車券をキャッシュレス決済できる機能を提供。

 また、公共交通不便地域におけるオンデマンドバスの運行や、自動運転一人乗りロボ「ラクロ」、つくば霞ケ浦りんりんロード(自転車道)の一部区間において電動キックボードの走行実験も行った。電動キックボードは車のドライバーからも、ロードバイク愛好家からも敵視されがちな乗り物だが、あえて自転車道での実験を行うあたり自治体レベルで電動キックボードの優位性を確かめようとしていることが分かる。

 いずれにしても公共交通網の網の目をカバーする移動手段を用意することで、地域の価値を高めることができるのかが焦点となる。免許を返納した住民に対してのケアを考慮するのであれば、乗り降りしやすく、移動中に座ることも可能で荷物も積みやすいシニアカーと呼ばれる電動カートのICT化が期待される。

 電動キックボードと同様に折りたたみ可能、省スペースで管理できるモデルが生産されていることから、ビジネスユースでも注目されるだろう。

photo 折り畳めるシニアカー「NOAA MOBILE-X」
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観光型MaaS──観光地におけるオンデマンドバスの優位性

 コロナ禍となって以来、厳しい日々を過ごしている観光業界にとって観光型MaaSは福音となるだろうか。東急、JR東日本、伊豆急行が進めてきた伊豆・西伊豆・静岡エリアをカバーした「Izuko」は、電車やバスが乗り放題となる2日間有効のデジタルフリーパス、連携するレンタカー・レンタサイクル案内、オンデマンドバスの整備を組み合わせて提供している。1泊2日のワーケーション、観光需要の創出を目指した。

 坂道の多い場所柄、電動キックボードは不適切だろう。また家族4人といったパーティ移動も多いはず。ならばこそオンデマンドバスの評価が高まるものと考える。しかも「Izuko」で使われたオンデマンドバス「Izuko いずきゅん号」は、車内で極力密とならないよう全席に専用のドアが設けられた遠隔型の自動運転EVバス。最高速度19km/hと設定することでシートベルトの装着義務がなくなり、広いウィンドウから風光明媚な景色を楽しめるものだ。

「Izuko いずきゅん号」が採用したシステムだと、天候が悪い時は遠隔操作ができず運行中止となったそうだが、観光地のモビリティとして適しているのではないだろうか。

photo Izuko いずきゅん号(プレスリリースより

 MaaSのシステムが全国津々浦々に行き渡るにはまだ道のりは長いが、日本でも少しずつ着実に進んでいる。

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