コロナ禍で対面接客が難しくなる中、スタッフが遠隔地から操作することで客を案内できる「遠隔操作ロボット」。そんなロボットで接客する際は「ロボットになりきる演技力とアドリブ力があるといい」──そう話すのは、サイバーエージェントの研究開発組織「AI Lab」主任研究員の馬場惇さんだ。あえてロボットらしくした方が、客とうまくコミュニケーションできるようになるという。
「商品説明や案内をするスタッフが立っていても、客自身から声をかけられることは少ない。情報を聞いてもらうためには客を引き付ける必要がある」と、馬場さんは人が生身で接客する際の課題を指摘する。一方でロボットによる接客であれば「スタッフが放つ“圧”や話しかけにくさを緩和し、客の興味を引き付けられる」(同)という。
この「ロボットらしさ」による接客効果を確かめる実証実験を、サイバーエージェントと大阪大学大学院基礎工学研究科が共同で行った。実験にはロボット開発を手掛けるヴイストン(大阪市西淀川区)の遠隔操作ロボット「Sota」(ソータ)を採用。ロボットらしく振る舞うため、スタッフが喋った声を機械音声風に変換し、Sotaの手や顔は音声に合わせて自動で動く設定にしたという。
実験を行った大阪府の動物園では、館内6カ所に設置したSotaを通して来園者の質問対応や動物を紹介する実験を7日間行った。出口でランダムに選んだ客に質問したところ、来園者が1体以上のSotaと会話した割合は約67%だった。「(動物園などの)施設で約7割の人がスタッフと会話することはあまりない」という。来園者からは「(人間のスタッフと比べて)気を遣わず楽しく話せた」という反応があったといい、遠隔操作ロボットを使う効果があるとした。
ロボットを操作するスタッフは、想定していない質問や会話にもロボットという設定を守りながら話す必要があるため「演技力やアドリブ力が求められる」という。
一方でロボットならではの課題もあるという。スーパーマーケットで商品説明をする実験でも、商品棚の前に客が立ち止まる割合が約1.4倍になった。しかし商品を購入する割合は約0.4倍に減少。この原因について「客の意識をロボットに引き付け続けてしまい、商品に意識が向きにくかった」(AI Lab)と分析した。
馬場さんは「(今回の実験では)およそ半分くらいの客は、人間が操作していると気付かなかった」といい、“ロボット演技”がうまく働いたとみている。
「会話が成り立つこと自体が客を引き付ける入り口になり、サービス提供を増やすきっかけになる。今後も実証実験を通してより良い使い方を確かめていきたい」
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