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コロナ後に求められる鉄道の姿とは? 「レイアウトを変えられる列車」など英国の取り組みから考えるウィズコロナ時代のテクノロジー(1/3 ページ)

» 2021年10月04日 08時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 出口が見えた、というのは気が早いかもしれないが、少なくとも新型コロナウイルスの流行第5波は終息しつつある。また国内のワクチン接種率も上昇を続けており、政府は9月28日、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置を30日で解除することを決めた。行動制限など1カ月の経過措置は行われるものの、長らく続いた制約が緩められることになる。さまざまな経済活動も、段階的に再開してゆくだろう。

 しかしワクチン接種後に新型コロナウイルスに感染する、いわゆる「ブレークスルー感染」の事例が多数報告されている。冬には第6波が到来する可能性も予想されており、決して油断は許されない状況だ。

 そんな中、以前のように経済を回していくために、社会をどのように変えていく必要があるのか。経済活動にとって欠かせない「移動」の側面に関して、英国では興味深いコンテストを開催している。

鉄道業界の未来を探る「FOAK」コンテスト

 2021年7月、英国政府が主催する「FOAK」というコンテストの結果が発表された。これは“First of a Kind”(最初の)という英語の頭文字を取ったもので、英国の運輸省と「Innovate UK」(イノベーションを目的とした研究資金の助成を行う政府機関)によって、2月から開催されていた。その内容は、鉄道の未来を変革するアイデアを募集するもので、今回で5回目となる。過去のコンテストでは、実際に「鉄道インフラを検査するドローン」などのアイデアが採用され、実現に向けた投資も進んでいる。

2021年2月に開催されたFOAK

 21年度のFOAKでは「COVID-19後の鉄道を、よりクリーンで、環境と乗客に優しいものにする」をテーマとして掲げた。その結果、30のプロジェクトが選ばれ、合計で900万ポンド(約13.5億円)を投資することが決まっている。いったいどのようなビジョンが提示されたのか、いくつかのプロジェクト内容を見てみよう。

車内のレイアウトを自由に変更できる列車

 20年の結果になるが、野村総合研究所(NRI)が全国の20代から60代を対象に行った「鉄道利用等に関するアンケート調査」によれば、鉄道利用者の82パーセントが車両内で時間を過ごすことに不安を感じているという。そのうち36パーセントが「肩が触れ合う」や「隙間がない」状態になったときに、約62パーセントが「空席がない、または半数以下」「立っている間隔が2m以内」の場合、乗車を避けたいと思っているそうだ。乗車に不安を感じない人は、実に8パーセントにとどまっている。

2020年9月にNRIが行った「鉄道利用等に関するアンケート調査」

 つまり乗客たちは、鉄道の車両内でもソーシャルディスタンスを保ちたいと思っているわけだ。しかし列車の車内はパンデミック以前に設計されたものである。乗客のマナーによってある程度ソーシャルディスタンスを実現できるとはいえ、物理的に密を避けられる環境ではない。そもそも首都圏の鉄道のように、ラッシュアワー時の密を前提に設計されている場合もある。

 そこで英国のデザインスタジオPriestmanGoodeが提案したのが、車内のレイアウトを自由に変えられる「Proteus」というコンセプトだ。同社の発表によれば、Proteusを導入した車両では、座席の追加や削除などを技術者によるサポート無しで行えるようになる。車両を運用する鉄道会社の現場担当者が、需要の変化に応じてレイアウトを変更できるわけだ。

 このレイアウトの中には、車内で仕事をする乗客向けの機能や、自転車などの収納スペースも含まれている。単なる乗客の数だけでなく、乗客の種類やニーズに合わせて車両内の構造を変更できるわけである。

 さらにProteusでは、「清掃しやすく、汚れのたまりにくいシートデザイン」も実現しているという。こうした点も、乗客の感染に対する不安を取り除くことに貢献するだろう。この技術は現在開発中で、最初のバージョンが2022年春までに完成する予定だ。

PriestmanGoodeが提案した「Proteus」のイメージ
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