NTTドコモは11月30日、iモード公式サイトのサービスを終了した。ある意味で日本の2000年代を支えた存在の終了であり、1つの時代の終わりともいえる。
一方で、「iモードとはどういう意味を持った存在であるか」については、少々誤解も多いように思う。iモードの全てが日本独自で悪いものではなかったし、現在の目で見て無価値なものではない。
iモードがなぜ盛り上がり、そしてスマホの勃興とともに消えていったのかは、業界構造を含めた理解が必要になる。
そしてそのことは「ガラケー」と呼ばれるフィーチャーフォンが、本当はどういうものだったのかを考え直すきっかけともなる。
今回は改めて、「iモードとは何だったのか」を考えてみたい。
この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年12月6日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。
iモードは1999年1月にサービスを開始した、NTTドコモの携帯電話向けネットサービスだ。実際には複数のサービスの集合体であり、「iモード」はその総称である。
iモードには「携帯電話を使ったネット接続サービス」としての顔と、その上で動くメールサービスである「iモードメール」、接続サービスであるiモードの網内でコンテンツと課金システムを提供する「iモード公式サイト」、そしてそれらが使える「iモード対応携帯電話」というレイヤーに分割できる。さらに、iモード網から専用のゲートウェイを通り、インターネット上に作られた「iモード対応コンテンツ」に接続することもできた。これは当時「勝手サイト」などと呼ばれた。
11月30日にサービスを終了するのはあくまで「iモード公式サイト」。対応端末の販売はすでに終了しているが、利用中のiモード対応携帯電話を使うための接続サービス自体は2026年3月31日まで続く。
あらためて説明されると複雑で面倒な印象を受けるかもしれない。
だが、iモードがスタート時にどういう存在であったかを理解するのは、この複雑性を頭に入れておく必要がある。
ご存じのように、家庭でのインターネット利用の初期、1990年代の間は、ほとんどの人が「モデム」で通信をしていた。
インターネットの利用はデータ量ではなく「通信の接続時間」単位で課金されていたわけだ。別の言い方をすれば、通信がつながっていれば、データが流れていなくても課金されていた。Webを読んでいる最中で通信が発生していない場合でもお金がかかる、ということで、読みたいWebや掲示板の新着情報をまとめてダウンロードしにいく「Web巡回ソフト」なんかもあったくらいだ。そうした状況は通信が定額制になることで変化し、その結果として、より自由なネット利用が拡大し、本格的な産業化が進行する。
インターネットはデータを「パケット」に分けてやり取りする「パケット通信網」だが、当時は電話回線の中でパケット通信を扱うのは特別なことだったのである。
これは携帯電話でも同様である。
前置きが長くなったが、ここにメスを入れてスタートした「個人向けのサービス」がiモードである。
携帯電話において、ようやく一部で使われるようになっていたパケット通信を最初から個人向けの端末サービスに組み込み、「パケット単位課金」=実質的なデータ量課金でスタートしたのが、iモードの特徴だ。
そのためiモードでは、当時のPC用インターネットと違い、読んでいるだけでは課金は発生しない。通信を行なった量だけ課金された。今となっては当たり前に見えるが、個人への利用を促す上では、このことがとても大きな要素だった。
1999年には、ドコモのiモードだけでなく、DDI・IDO(現KDDI)の「EZaccess/EZweb(現EZweb)」もスタートしている。こちらも、iモードと同じく「モバイルでのネットコンテンツ」を軸にした。
だが、スタート時にEZwebが採用したのは「時間課金」だった。端末内で細かく接続制御が行われ、PCのように「利用中はずっとつなぎっぱなし」というわけでもないのだが、それでも、携帯電話からネットを見に行くとまず接続が行われ、その後に閲覧可能になり、さらに一定時間が経過すると接続が切れる……という挙動になっていた。筆者も使っていたが、利用が複雑だったし、なにより表示が遅かった。公式サイトの表示までに30秒近くかかっていた記憶がある。
それに比べると、iモードはあきらかにシンプルで分かりやすかった。EZwebがパケット通信でない、という課題は後に解消されてiモード同様シンプルになり、市場を盛り上げていくことになる。
なお、会社買収などの経緯もあって複雑なので解説は省くが、現・ソフトバンクも、当時J-PHONEとして「J-SKY」を立ち上げ、その後「Vodafone live!」となり、「Yahoo!ケータイ」へ名前を変えつつ、同様の携帯電話向けインターネットサービスが展開されていく。
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