帰国後2週間の生活がどうなるか見えないと、仕事上問題は大きい。自宅に隔離ならいいのだ。機材も回線もあるし、仕事は十分にできる。だが、どこになるか分からない宿泊所では、仕事環境を維持できるかどうかも不安だ。回線事情も十分とは限らない。
それに、海外の現状を取材したいのはやまやまだが、自分が「日本にコロナウイルスを持ち込む人間」になるリスクは避けねばならない。もちろん、私だって感染はしたくない。万が一にも米国内で発症することになれば、費用負担を含め大変なことになる。
というわけで、今回は渡航を断念することになった。
同時期に、出展を予定していたIT大手の「出展取りやめ」の連絡も多数届いた。筆者が把握している限りでも、Amazon、カシオ、Google、Lenovo、Meta(Facebook)、General Motors、AT&T、T-Mobileなどがリアルでの出展を取りやめている。
正直なところ、11月末までは、ここまでの話ではなかったのだ。たった3週間程度で、米国を含む他国の状況は劇的に変わってしまった。
この急激な変化こそ、指数関数的に広がるウイルスの脅威であり、今は比較的平静である日本も楽観できる状況にはない。
とはいえ、21年もまだコロナ禍にあり、CESのような大型イベントにリスクがあるのは分かっていたことだ。だから、最初から22年も渡米を見合わせる判断をしていた記者も少なくない。CESというイベントの出展規模自体も、往時に比べると半分以下の2000企業規模程度になっていた。
ただ筆者は、それでも「落ち着いてきたので、22年は取材に行こう」と考えていた。
理由は2つある。
1つ目は、米国の状況を実際にこの目で見てみたかったからだ。日本よりもはるかに大きな被害に見舞われた米国で、新しい時代のイベントがどのような形で開催されるのだろう……という純粋な興味があった。言葉は良くないが、それを見て、写真や映像に記録し、記事にするのは戦場カメラマン的な意味で「行かなければ、この状況は残せない」と思った、という部分がある。
そして2つ目が「オンラインではリーチできない企業も多い」ということだ。
21年1月のCESでは、大手企業の発表について「映像での情報提供価値の格付け」みたいなこともやってみた。
実のところ、CES 2022も大手なら同じことができるし、キーパーソンへの取材なども可能だから、そこまで取材する上での苦労はない、と思っている。
だが、CESはそれだけで成立しているイベントではない。むしろ、もう5年以上前から、大手はCESの主役ではない、とすら思っている。
では主役はどこか?
それは、世界中から集まるスタートアップ企業だ。
玉石混交ではあるが、それぞれが得意とする技術・製品をアピールし、新しいビジネスの形を模索している「熱気」こそ、今のCESの1つの価値だった。
だが、そうした熱気はオンラインでは再現しづらい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR