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「CES 2022」取材を断念した理由 「リアルイベントの価値」とは何かを考える(2/3 ページ)

» 2021年12月27日 15時51分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

見えない、帰国後の生活

 帰国後2週間の生活がどうなるか見えないと、仕事上問題は大きい。自宅に隔離ならいいのだ。機材も回線もあるし、仕事は十分にできる。だが、どこになるか分からない宿泊所では、仕事環境を維持できるかどうかも不安だ。回線事情も十分とは限らない。

 それに、海外の現状を取材したいのはやまやまだが、自分が「日本にコロナウイルスを持ち込む人間」になるリスクは避けねばならない。もちろん、私だって感染はしたくない。万が一にも米国内で発症することになれば、費用負担を含め大変なことになる。

 というわけで、今回は渡航を断念することになった。

 同時期に、出展を予定していたIT大手の「出展取りやめ」の連絡も多数届いた。筆者が把握している限りでも、Amazon、カシオ、Google、Lenovo、Meta(Facebook)、General Motors、AT&T、T-Mobileなどがリアルでの出展を取りやめている。

 正直なところ、11月末までは、ここまでの話ではなかったのだ。たった3週間程度で、米国を含む他国の状況は劇的に変わってしまった。

 この急激な変化こそ、指数関数的に広がるウイルスの脅威であり、今は比較的平静である日本も楽観できる状況にはない。

「リアルイベント」の価値は大手でなくスタートアップにあり

 とはいえ、21年もまだコロナ禍にあり、CESのような大型イベントにリスクがあるのは分かっていたことだ。だから、最初から22年も渡米を見合わせる判断をしていた記者も少なくない。CESというイベントの出展規模自体も、往時に比べると半分以下の2000企業規模程度になっていた。

 ただ筆者は、それでも「落ち着いてきたので、22年は取材に行こう」と考えていた。

 理由は2つある。

 1つ目は、米国の状況を実際にこの目で見てみたかったからだ。日本よりもはるかに大きな被害に見舞われた米国で、新しい時代のイベントがどのような形で開催されるのだろう……という純粋な興味があった。言葉は良くないが、それを見て、写真や映像に記録し、記事にするのは戦場カメラマン的な意味で「行かなければ、この状況は残せない」と思った、という部分がある。

 そして2つ目が「オンラインではリーチできない企業も多い」ということだ。

 21年1月のCESでは、大手企業の発表について「映像での情報提供価値の格付け」みたいなこともやってみた。

 実のところ、CES 2022も大手なら同じことができるし、キーパーソンへの取材なども可能だから、そこまで取材する上での苦労はない、と思っている。

 だが、CESはそれだけで成立しているイベントではない。むしろ、もう5年以上前から、大手はCESの主役ではない、とすら思っている。

 では主役はどこか?

 それは、世界中から集まるスタートアップ企業だ。

 玉石混交ではあるが、それぞれが得意とする技術・製品をアピールし、新しいビジネスの形を模索している「熱気」こそ、今のCESの1つの価値だった。

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photo 2020年1月のCESにおける、スタートアップ向けブース「エウレカパーク」の様子。小さな机1つのブースが多数あり、各社が自らの価値を懸命にアピールしていた。これはまだオンラインでは再現が難しい

 だが、そうした熱気はオンラインでは再現しづらい。

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