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新時代の名刺交換だった「Poken」 プロフィール交換の課題と未来を考えるデジタル・イエスタデイワンスモア計画(1/2 ページ)

» 2021年12月28日 13時07分 公開
[甲斐祐樹ITmedia]

 過去の魅力あるサービスやガジェットを温故知新的に改めて見直す本連載、今回はプロフィール交換ガジェット「Poken」(ポーケン)を取り上げる。今はEightやSansanなどの名刺交換サービスが広く使われるようになっているが、Pokenのリリース当時はそれに類するものはなかった。

「タッチ」でプロフィールを交換できる小型のガジェット

 Pokenは、USBポートを備えたキーホルダーサイズの大きさで、両面に動物や宇宙人といったキャラクターが描かれた小型のガジェットだ。プロフィール交換ガジェットと前述した通り、自分の名前やメールアドレス、SNSのアカウント、ブログのURLなど、さまざまなプロフィールを登録しておき、相手のPokenと交換できる。

photo 筆者の所有していたPoken

 互いのPokenの手の部分をタッチするという物理的なやりとりで「名刺交換」する。その後でPokenをPCに接続すると、タッチした相手のアカウントが一覧表示され、プロフィールが交換できるという仕組みだ。

 利用シーンは名刺交換に近いが、実際のやりとりはお互いのPokenをタッチするだけでいい。名刺交換の場合は記載されたメールアドレスや電話番号を改めて手で入力する手間がかかるが、Pokenならテキストデータ化されているので圧倒的に手軽だ。

2009年にユーザーの間で注目を集めるもその後は失速

 開発はスイスのPoken SAで、日本では2009年3月に発売された。広瀬香美など有名人が使い始めたことで人気が急上昇したTwitterブレークの年である。加入者の増加ペースに陰りはみえていたもののmixiも根強い人気で、翌10年には会員2000万人突破を達成している。このほかブログやSkypeなど、ネットユーザーは多数のアカウントを保有している状態だった。

 自分が使っている多数のアカウント情報をまとめて交換できる利便性に加え、実際にタッチして交換するというギミックの面白さに注目が集まり、一部のネットユーザーがPokenに注目。ユーザー主導で開催された「Poken Night」は、当初40人の枠を予定していたが、想定以上の申し込みがあり、急きょ100人に拡大するほどの人気ぶりだった。

 しかしその人気はつかの間で、09年後半にはPokenの話題を目にすることはほとんどなくなった。

 翌10年には、日本でFacebookが普及しはじめたきっかけの1つとなった、ユーザー主導の「Facebook忘年会」が、これまた100人近い規模のイベントとして開催されたのだが、Pokenが活躍する格好の場であるはずのこのイベントで配られたのは全員分の名刺であり、会場でPokenを見かけることはなかった。

photo 2010年末に開始された「Facebook忘年会」で配布されたユーザー名刺

リアルのコミュニケーションに活用できなかったPoken

 Poken失速の理由はいくつか考えられるが、大きな要因は交換したプロフィールをその場で確認できなかったことにあるだろう。名刺交換の場合、交換した名刺を見てすぐに相手の会社や職種などを確認し、その後の話題につなげられる。ネットユーザー同士の集まりであれば、プロフィールのアイコンを印刷しておくことで「あのアイコンの人!」と気づいてもらえる。

 一方、Pokenはタッチしても相手の情報をその場で確認できないため、その後のコミュニケーションが生まれにくい。リアルなイベントで重要なのはその場で発生する交流であり、せっかくプロフィールを交換してもコミュニケーションを促進する効果が生まれない、というのは惜しいポイントだ。

 交換したデータを見るためにPCのUSBに接続する、という手間も面倒だ。飲み会などでPokenを使ったものの、家に帰ってすぐ寝て次の日はそのまま出社。Pokenのデータを放置し続けた結果、使わなくなっていくことも珍しくなかった。

 09年は「iPhone 3GS」や、日本初のAndroidスマートフォンである「HT-03A」が登場した年でもある。フィーチャーフォンに比べてSNSやブログ、メッセンジャーが手軽に扱えるスマートフォンが普及するにつれて、プロフィール交換も簡単になっていた。

 Pokenをタッチしてプロフィールを交換する、という体験自体はとても新鮮だったが、何度かやるとその新鮮味も失われてしまう。そのために小さなガジェットを1台持ち歩くという手間と、前述の課題によって、Pokenはほとんど使われなくなってしまった。

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