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まだ見えぬ「PlayStation VR2」の本当の姿――歴史と「いま分かること」から予想する(2/3 ページ)

» 2022年01月07日 10時30分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

PS5世代向けに「リビルド」されたVRシステム

 というわけで、前置きが長くなったが、ここからはPSVR「2」の話に入る。

 PSVRはPS5でも使えるが、SIEが「PS5世代向け」を開発しているのは以前から公然の秘密だった。PS5発売のタイミングである2020年11月、筆者は、SIE・シニア・バイス・プレジデントでプラットフォーム・プランニング&マネジメント担当の西野秀明氏にインタビューした。

 そこで彼は次のように答えている。

 「西田さんのご質問についての回答は、『PS5にはPS5にふさわしいVR体験を期待したいですよね』とお答えします。それ以上のコメントはできませんが、期待したいですよね(笑)」

 そして、2021年2月末に存在が公開されたのが、「PlayStation 5世代に向けた次世代のVRシステム」である。今回PSVR2として発表された製品だ。

 PS5世代に合わせた体験、ということには2つの要素がある。

 1つ目は、PS5がターゲットとする技術世代に合わせた画質になる、という点だ。

 PS5は4K・HDR・120Hzをターゲットとしたハードである。PS4世代に比べ画質とフレームレートが上がる分、VRとしての体験も向上する。

PS Blogより、PSVR2のスペック一覧

 2つ目は「現状のVR機器の進化に追いつく」ことだ。

 現状、一番売れているVR機器はMetaの「Meta(Oculus) Quest2」だ。PCと接続することを前提としないスタンドアロン型になっている。シンプルでケーブルがない体験が支持されるようになってきた。

 PSVR2の場合、PS5の周辺機器であるという事情はあるので「接続」は必須になるが、PS4に比べてPS5は処理性能も向上しているので、従来は外付けだったものを不要にできる。ポジショントラッキングも、VR機器本体のカメラで行う「インサイド・アウト」形式が主流になったため、PSVR2もその方式となる。

 結果として「進化した画質」「ケーブル1本での接続」という、PSVR1の欠点をカバーする製品になることは確実であり、その点は期待していい。

「視線トラッキング」と「Foveated Rendering」に注目

 ただ、それでも懸念点はある。

 前述のように、今はQuestのような「スタンドアロン型」が広がりつつある。PSVR2に無線接続のオプションがないという確証はないが、基本が「ケーブル1本でPS5と接続」であることは間違いない。

 また、PS5が4K・HDR・120Hzをターゲットとしたハードウェアであると言っても、実際に4K・HDR・120Hzを実現するのは非常に厳しく、複雑なゲームを使った場合は画質での妥協が必要になる。

 ではこれらの点をどう解決するのか?

 それが、PSVR2に搭載されていることが確実となった「視線トラッキング」と「Foveated Rendering」である。

CES 2022での発表でも、解像度向上やFoveated Renderingなどがアピールされた。

 Foveated Renderingは「中心窩レンダリング」とも呼ばれる技術。人間の目はフォーカスの中心部(中心窩)のみ解像度が高く、周辺視野は若干ぼやけている。そこで、視野の中心のみ高い解像度でレンダリングし、それ以外の解像度を落とすわけだ。画面全体を高い解像度でレンダリングする場合に比べ、処理を効率化できるのが利点である。以下の画像は、2016年3月開催のゲーム開発者会議「GDC 2016」でValveが行った講演のスライドからの引用だ。シンプルな例だが、どんな感じなるかは分かり易いのではないだろうか。

2016年3月開催のゲーム開発者会議「GDC 2016」でValveが行った講演のスライドより。視野の中央(緑色)とそれ以外で処理の解像度を変えることで負荷を落とすのがFoveated Renderingだ

 Foveated Rendering自体は珍しいものではなく、VRでは一般的なテクニックではある。だが、ほとんどのVR機器には「視線トラッキング」がない。だから「視野が固定されている」前提にして、決め打ちで密な部分と疎な部分を決めている。結果として、目をキョロキョロ動かすと効果が落ちることになる。俗に「Fixed Foveated Rendering」と呼ばれる手法で、前出のValveのスライドはこの例である。

 だが、PSVR2には視線トラッキングがある。PSVR2内でどちらを見ているかを認識し、その位置に合わせてFoveated Renderingの密な部分と疎な部分を最適化できる。だから、どこを見ても「中央が緻密な表現」である状態を保ちやすくなる。

発表でもPSVR2の特徴として「視線トラッキング」の存在がアピールされた。Foveated Renderingと組み合わせた際の価値が大きい

 ここから考えられるのは、PSVR2は「最適化された体験の強み」を目指す、ということだ。

 スタンドアロンVRデバイスは快適だし、単一のハードウェアに向けた最適化もできるが、性能面での限界はいかんともし難い。

 ゲーミングPCなどのパワフルな機器を外付けにした方が体験は向上するが、一方でPCはいろいろなスペックのものが入り乱れているし、VR用HMDも複数ある。体験の最適化にはマイナスだ。

 PS4用のPSVRも「最適化された体験を、PCよりも低コストで」という点がメリットだった。PSVR2も同じように、ゲーム機であるメリットを最大限活用してくるのは間違いない。

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