ソニーにとって、自動車関連事業は「新領域」である。
例えば「センサー」。自動運転や安全走行には、自動車の周囲をより正確に素早く把握するセンサー技術が欠かせない。ソニーといえばスマホ向けのイメージセンサー、という印象があるが、それらの技術は当然自動車向けにも使える。自動車メーカーへの売り込みは継続して行われている。
そんな中で、ソニーとしてはまず、「センサーを活用するとどう自動車が変わるのか」をアピールする必要があった。また、センサーを実際に自動車に生かした場合の知見を蓄積することも重要だ。VISION-Sはソニー製センサーの塊のようなものでもあり、動く実験場であり、走る製品サンプルとも言える。
多数のセンサーから取得されるデータを活用するには、クラウドを活用した解析や学習処理が必要。さらに、クラウドで解析した結果はEV側に反映され、EVをより賢く、安全に走らせるために使われる。
VISION-Sはクラウド側の処理をAWSで構築している。そこから情報を取得して進化していくというのは、自動車というよりIT機器のようだ。
VISION-Sの開発を担当するのは、ソニーのAIロボティクス部隊。2018年に復活した「aibo」を作り、2021年にはプロの撮影用途を軸に据えたドローン「Airpeak」を開発した部隊でもある。要は「AI的な処理を伴って動くもの」を一手に担当しているチームなのだ。
安全性や速度など、条件はどれも異なっている。だが、「センサーから得た情報をクラウドで処理し、それを付加価値として機器を動かすために使う」という部分は共通している。
この部隊のトップが、ソニーグループ常務・AIロボティクスビジネスグループ 部門長の川西泉氏だ。
川西氏はPlayStation 3などの開発にも参加し、一時はソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)のCTO(最高技術責任者)でもあった。川西氏は「プラットフォームがあって、そこにソフトで付加価値をつけ、進化させていく」と、VISION-Sの特徴を説明するが、それはプレイステーションやaiboでやっていることと、考え方としては近い。
VISION-Sの場合、車体はマグナ・シュタイアのノウハウで作られた部分も多く、「走る・曲がる・止まる」といった基本要素は、ソニーの開発部分以上に、彼らのノウハウに依存する部分も大きい。
だが、センサーを生かした安全走行や、乗り心地と走行安全性に関わる電子制御サスペンションの効かせ方などは、ソニーが付加価値を出せる「ソフトで制御可能な領域」でもある。ソフト制御により、自分の好みや走り方にあった設定を組み合わせることで、VISION-Sは「自分のクルマ」になっていく。
アップデートを前提とした「機能向上」と「パーソナライズ」という要素を打ち出して価値にしていくならば、それは、従来の自動車とはちょっと違った価値観という話にもなる。
そんなことを意識してか、川西氏は「自動車も、大きな枠でいえばIoTですから」と話す。その部分こそ、ソニーがEVを手掛ける意味であり、ある意味で「勝ち筋」なのだろう。
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