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「頭をなでる」「ビンタ」「ハグの拒否」などアバター同士の接触を滑らかにするVR技術、東工大が開発Innovative Tech

» 2022年01月24日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 東京工業大学長谷川研究室の研究チームが開発した「Avatar Tracking Control with Generations of Physically Natural Responses on Contact to Reduce Performers’ Loads」は、バーチャル空間でアバター同士もしくは3Dオブジェクトとの接触の際に、両者が自然な動きで表現できる技術だ。

 頭をなでる、ハグするなどのアバター同士の接触が行われた際に、その接触に応じた滑らかな動きを自動生成して不自然さが少ないリアクションを表現する。

左からビンタ、落下する3Dオブジェクトとの接触、ハグの拒否を示した出力結果

 近年、バーチャルYouTuber(VTuber)や、VR空間でアバター同士がコミュニケーションをとるVRChatなどのソーシャルVR、複数のプレイヤーがオンラインで対戦するVRゲームなど、モーションキャプチャーを使ったアバターがバーチャル空間でリアルタイムにパフォーマンスを行う場面が多くなった。このようなアバターアプリケーションでは、接触型のコミュニケーション(握手や抱きしめるなど)が行われる。

 しかし、接触時に突き抜けてしまったり、反応がなかったりと、不自然な動作により臨場感を損なう場合がある。今回はこの問題を解決するため、3Dオブジェクトや他のアバターとの自然な接触を表現できるアバター制御法を提案する。

 提案手法では、アバターや3Dオブジェクトとの衝突を検知して接触力を計算する剛体物理シミュレーションを使い、接触の影響を考慮した動作を自動的に生成する。 また、フィードフォワード制御を組み合わせる方法でトラッキングの遅延を低減する。

 システムは、メインシミュレーションとトラッキングトルクを計算するシミュレーションの2つの物理シミュレーションで構成する。これらのシミュレーションでは、関節角度のPD制御を行っており、接触時の応答と非接触時の素早い追従を両立させるために、異なるPDゲインを採用している。

 トラッキングトルクを計算するシミュレーションでは、PDゲインを高くすることで、入力した動きを素早くトラッキングするために必要な関節トルクを計算している。

システムの概要

 これにより、アバターは接触していない状態では遅延なくトラッキングを行え、接触時にはアバターが柔らかく変形し、接触終了後はゆっくりと元のポーズに戻る動作を自動生成する。

 実験では、この手法を適応したバージョンや適応しない通常のバージョンなどを試し比較した。アバターの物理モデルは、 総重量50kg 、アバターの骨構造に基づいた物理シミュレーション用の剛体関節モデルを使用した。

 Unityで開発し、入力デバイスとしてOculus RiftとOculus Touchを使用した。ボトル(9kgと1.5kg)が飛んできてアバターにあたる、アバターの顔や背中をたたく、頭をなでる、抱きしめるなどのモーションを行い、被験者に自然かを9段階で評価してもらった。

 結果、3Dオブジェクトに当たる、アバターをたたくなどは、衝撃を吸収するように首や腰が滑らかに曲がる大きな動作を生成して、この手法の方が有意に自然と評価された。

 一方、ハグや頭をなでるなどは、衝撃を吸収する量も少ないことから動作が比較的小さくなり、有意な差は見られなかった。別の実験では、相手が不規則な動きをするなど貫通が生じやすい場面では、提案手法の方が少ない回数で演技に納得できており、ユーザーの演技負荷軽減が実証された。

 動画はこちら

Source and Image Credits: Ken Sugimori, Hironori Mitake, Hirohito Sato, Kensho Oguri, and Shoichi Hasegawa. 2021. Avatar Tracking Control with Generations of Physically Natural Responses on Contact to Reduce Performers’ Loads. In Proceedings of the 27th ACM Symposium on Virtual Reality Software and Technology (VRST '21). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 1, 1-5. DOI:https://doi.org/10.1145/3489849.3489859



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